「ほーんとラッキ。、なんでこんなトコいるの?」
ラスティのバイザーは無惨にも割れていて、ラスティのまぶたの上が見事に切れて血が出ていた。
「もーだめかと思ったぁー。・・思う間もなく気絶してたけどさ。」
「手は動く?」
「ん。・・平気。」
に身体を預けたままだったが、ラスティは手を開いたり閉じたりして答えた。
受け答えがはっきりしていたので、はほーっと安心して息をはいた。
「んもうっ!『ちょーっと失敗』どころじゃない!」
「そうだねー。僕みたいな人間でも、生きててよかったーって今思ってる。」
「あたりまえ!」
「いで・・っ」
左肩を叩かれて、ラスティが声をあげた。
〔 痛いほどに綺麗な 〜PHASE.08〜 〕
相変わらずな口調のラスティだったが、自力で動き出すことは難しいらしい。
まだに身体を預けたままだった。
はラスティの首にかかっているエマージェンシー信号を発信した。
「はァ〜。かっこ悪。」
「生きてるんだから、かっこ悪くない。」
がっくりして言ったラスティに、がきっぱり否定する。
「そっか。・・・うん。」
「うん。ラスティはかっこいいよ。」
「・・・・。あのね。あんまり笑顔で言わないで。なんか逆に恥ずかしいから。」
「?」
ようやくラスティはラスティらしくほほ笑む。
そして顔を引き締めた。
「もう行って。これで僕は大丈夫。がいると、ややこしいことになっちゃうかもしれないから。」
「でもラスティ。置いていくなんて・・・。」
「はまだ、やることがあるんでしょ?さっき何かを探してた。」
「そうだけど・・・。」
「僕、かっこいいでしょ?かっこよくいさせてー、って。」
「ラスティ。」
「お願いだ、。君は入隊していない。だからここにいられるんだ。それを忘れないで。」
はラスティを壁にもたれさせて、最後にラスティの両手を自分の両手で包みこんだ。
「迎えがくるまで、どうか無事で。」
「ん。大丈夫。」
「・・・・・じゃ、行くね。」
「あぁ。も気をつけて。」
ラスティの言葉にひとつうなずいて返すと、はその場を走り去った。
「・・・・しばらく見ない間に、かわいくなってた。」
ラスティは壁にもたれかかって、目を閉じた。
***
ハンガーの外に出ると、上空をアスランの乗った機体が上昇していった。
キラが乗せられた機体は、ザフトのモビルスーツのジンと対峙している。
は一瞬目を細めてキラの名前をつぶやくと、その光景に背中を向けた。
ほとんどの人は避難してしまったらしく、人の姿はまったくなかった。
立ち並ぶハンガーのシャッターは、ほとんど開いていた。
が、そのうちのひとつに閉まっている場所を見つけて、はその前で足を止めた。
ハンガーの入り口にあるパットを操作したが、シャッターは開かない。
は自分のケータイを取り出した。
普段会話やメールをするだけではまったく使わない場所を開いて、細いコードを取り出す。
そのコードを操作パットの一部に取り付けてケータイから操作をするとシャッターが開いた。
もちろんが持っているこのケータイは、通常のケータイの機能を遙かに上回るもの。
が自分で改良し、造った物だ。
今もシャッターの操作パットにかけられていたセキュリティーを解除して、起動させるようにシステムを変更してしまった。
こんなことは雑作もないことだった。
ハンガーの中は、しばらく人の出入りがなかったことがうかがえるほどに、ガランとした空気だった。
外での雑踏がウソのように静かな工区内。
そこに一機、予想通りモビルスーツが横たわっていた。
すばやく乗り込み起動させる。
「無線式ガンパネル・・・・。造ったはいいけど、ナチュラルでは動かせなかったと。」
機体の情報を読みこむにつれて、放置されていた理由に納得する。
メイン装備が使えない機体の開発なんて、進みようがない。
さっきと同じようにケータイからコードを繋いで、機体のプログラムを操作する。
解析と修正を同時に進めながら、は自分流に機体をプログラミングしていく。
もともと設定されていたOSでは、起きあがるだけで3分はかかる。
は次々に制御モジュールを書き換えていった。
やがて、一通り難なくシステムの改修を終えて、はコックピットの中で考えた。
アカデミーを卒業しているとはいえ、一応は民間人。
ヴェサリウスの認識番号も知らなければ、自身の認識番号もない。
そしてこれは地球軍機。
となれば、地球軍の兵士が乗っていると思われて当然だろう。
「そしたら、敵でしょ?アスランに、ニコルに、イザークに、ディアッカ。ラスティはまさかムリだもんね。
うん。イザークなんて、話聞いてくれなさそうだし。撃たれて、墜落?うわぉ、嫌だ。」
純粋に考えても4対1。
アカデミーのシュミレーションを見ても、勝てる気はしない。
「キラも連れていかれちゃったし・・・。」
とっさに助けてしまったばっかりに、地球軍のコックピットに押しこめられてしまったキラ。
別れ別れになった瞬間の、キラの顔が浮かんだ。
「このままにはできないよね。」
誰にともなくそう言うと、はようやく機体を起きあがらせた。
すぐにエリア内をレーダーで探知したが、電波障害によって何を知ることもできない。
まだ電波障害があるということは、ザフトによる戦闘行為は続いているということ。
「みんな、無事かな?」
の頭に、ヘリオポリスでできた友達の顔がよぎる。
さらに、戦闘行為に加わっているであろう、ザフトにいる友達の顔。
ラウと、レイ。
「あとで、必ず。」
記憶の中にいる全員に告げてから、はもう一度操作レバーを握りなおした。
工区から出ると、電波干渉が途絶えた。
一時的かもしれないが、ザフトの攻撃が今は止んでいるということだろう。
の機体のレーダーには、一機のモビルスーツと一隻の戦艦の反応が出た。
「アークエンジェルに、ストライクか・・・。キラが乗せられた機体かな・・・?」
はひとつ呼吸を溜めてから、機体を空へ飛ばした。
アークエンジェルのハッチは開いていて、ちょうどその部分にストライクが見えた。
は、戦艦のそばに機体を降ろした。
ハッチを開けて、一番に目に入った人の名を呼ぶ。
「キラ!無事でよかった!」
さっきまで、本当に死と生の隣り合わせにいた二人。
今は一瞬の静寂なのかもしれないが、それでもこうして無事に再会できたことは喜びだった。
「!無事ね?!」
ミリアリアがに駆け寄る。
はそのままの勢いでミリアリアに抱きついた。
「ミリィ!」
「ああ、もう!心配したんだから。」
とミリアリアはお互いの存在を確認しあうようにぎゅっと抱きしめあった。
「サイ!トール!カズイ!みんなも無事でよかった!」
さっき別れたみんなの顔が見えて、は名前を呼んで確認した。
それぞれ手を振ったり、合図したりしてくれたが、キラだけは浮かない顔をしていた。
「あなた・・・あの機体を動かした・・・の?」
キラをモビルスーツに連れこんだ女性が、の乗ってきた機体を見あげて言った。
「ハイ。なんか、放置されてたし、避難できるシェルターもなくって。」
なにも裏はない。
私はただの学生。
を、アピールしながらニコニコ笑顔では言った。
「。」
浮かない顔のままのキラが、を呼ぶ。
「ん?」
「どうして・・・ここに来ちゃったんだ・・・。あのときは、・・・・アスラン・・・・。」
キラの声は小さすぎて、誰にも聞こえなかった。
キラが工区内で最後に見たのは、アスランに人質にとられた格好の。
あれからなにがどうなって、がこうしてここに無事でいるのか、不思議だった。
けれど、それ以上に自分と同じく「モビルスーツに乗れる少女」というものが、なにを表しているのかを、知られてしまうことが怖かった。
さっきキラは、それがわかったとき、一斉に銃を向けられた。
「キラ?大丈夫?」
急に黙ってしまったキラを心配そうに、は近づき声をかけた。
「キミ達、コーディネーターのきょうだいってトコかな?」
割って入るように、紫のパイロットスーツを着た青年が二人に話しかけた。
「きょうだいじゃないですよ?私もコーディネータですけど。」
さらっと言ってのけた。
さっきキラがされた行為を思い出して、キラたちのほうが恐怖心を抱く。
「へぇ、こんなところに二人もコーディネーター。ま、めずらしくもないのか?」
「オーブですから。」
敵意も見せずにニコニコとが答えた。
その会話を聞いて、後にいる保安員の何名かが銃を構えた。
全員が構えなかったのは、さっきのキラのときのことがあったからだろう。
けれどの感性がそれを見逃すはずもない。
は慌てず騒がず、笑顔のままで聞いた。
「どうして銃を向けられるんですか?私。」
ラスティの言葉が、今、に聞こえてくる。
『はザフトの軍人じゃない。だからこの国にいられるんだ。それを忘れないで。』
そう、自分は軍人じゃない。
だからここにいて、間違いじゃない。
銃を向けられる所以もない。
ラスティの言葉に、は自信を持っていた。
「銃を降ろしなさい。」
一番近くにいた女性が言った。
「地球軍の将校、マリュー・ラミアスです。残念だけど、貴女も私たちの指示に従ってもらうわ。」
本日二度目の言葉になる身柄拘束宣言に、マリューはため息をついた。
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【あとがき】
ラスティが落ちてきた。(笑)