すでにボルテールを降りていることも、終戦していることも、にとっては驚くばかりだった。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:24 −魂の解放−
「どうして・・・・・・・・。記憶がないなんて。」
医務室を出て三人だけになると、キラがつぶやいた。
からキレイに消えてしまっていた、前世。
明け方に見ていたあの夢すら、は覚えていなかった。
「覚えていてほしかったか?」
イザークが失笑にも見える笑いを浮かべて言った。
その態度にむっとしたキラは、平然とイザークに言葉を返す。
「そうだよね。イザークは忘れてもらった方がいいよね。だって、最後は僕のほうが恋人だったわけだし?」
キラの言葉に、イザークはワナワナと震えた。
アスランはその二人を見ながら、あきれたように言う。
「今イザークを付き合ってることすら、忘れてるんだぞ? は。」
「そうか。じゃあ僕にもまだチャンスあるんだ。」
はじけんばかりの笑顔で、イザークにキラが告げる。
「キラぁ〜〜っ! お前なあっ!」
いくら記憶がなくなったとはいっても、現世のの気持ちをもう知っている。
確かに一度は、想いを通わせたのだから。
からかわれているのだとわかっても、イザークはいちいち反応してしまうのだった。
イザークを一通りからかって、アスランとキラは部屋に戻った。
まだ肩で怒りながら自室に消えていくイザークを、キラが哀しげな目で見送っていた。
アスランはそんなキラに気づくと、声をかけた。
「キラ。は―――・・・。」
アスランの言葉を、キラは首を振ってさえぎる。
「わかってる。はまた、イザークに戻るんだ。」
キラはそこで目を伏せると、今度はまた笑顔に戻る。
「が幸せなら、僕はそれでいいんだ。」
「そうか。」
複雑な顔をしたアスランに、キラが言う。
「今回は、僕もアスランと同じだ。・・・不本意ながらね。」
笑いあうキラとアスラン。
二人がこうして穏やかに話をするのも、ずいぶんと久しぶりだった。
前世は消えた。
が、消してくれた。
そうして残ったのは、自分がキラ・ヤマトで自分がアスラン・ザラだということだけ。
囚われるものは、何もない。
だから今は、これでいい。
「あーあ。どうやってあきらめようかなぁ、のこと。」
少しおどけながらキラが聞いてきたので、アスランもそれにならって答える。
「自害してみるか? キラ。」
かなりディープな答えにもかかわらず、キラは笑う。
「やだ。そんなことするくらいなら、ジャマし続けた方がいいな。」
自分で命を絶つなんてことは、もうしない。
あれは、一番やっちゃいけないことだった。
そうして死んだのはキラだけでも、残されてキズついたのは“イザーク”と“アスラン”だったから。
それを知ったも、覚えていないにしろ、キズついていたから。
「アスラン。もう、僕は間違えないよ。」
「キラの奴、そんなことを言ってたのか。」
「こう言ったらいけないのかもしれないが、俺もの記憶がなくなったことは、良かったと思っている。」
夜半過ぎ、唐突にイザークの部屋をアスランが訪ねていた。
「イザークは、残念だったかな?」
アスランが言うと、イザークは顔色ひとつ変えずに言った。
「別になんとも思わない。」
「強がりか? イザーク。」
さすがにアスランもそう言うしかなかった。
前世で結ばれなかった恋人が、今度こそ結ばれる。
そんな熱い想いが、一瞬で消えてしまったというのに。
「ずいぶんとマヌケな顔だな、アスラン。」
さらりと挑発的な言葉を言って、イザークは続けた。
「あいにく俺は前世より今が大切なんだ。あんな記憶、なくて充分だ。」
ここまではっきりと言い切られては、アスランはもう笑うしかなかった。
「あんな記憶、か。―――確かに、そうかもしれないな。」
ようやく笑顔をみせたアスランに、イザークも嘲笑を返した。
「それじゃ、イザーク。ジャマして悪かった。」
「今度は人が寝てる時間に来るなよ。」
最後まで高飛車なイザークに、アスランは捨て台詞を残した。
「の気持ちを知りながら、どんな告白になるのか見守ってるよ。」
扉が閉まったあとで、イザークがアスランに言った。
「よけいなお世話だ。」
言葉とは裏腹に、アスランもイザークも、心が穏やかだった。
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