イザークがの部屋を訪れたとき、はスヤスヤと寝息をたてていた。
起こさないようにそっと、寝顔をのぞきこむ。
ボルテールの格納庫。
ザクの足元で抱き合った記憶。
ザクのコックピットで、初めて前世に触れた記憶。
その何もかもが、には残っていない。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:25 −めぐり逢えた奇跡−
ベッドの上にイザークが腰をかけると、スプリングがきしみ、の身体に振動が伝わる。
「う・・・ん?・・・だぁれ・・・?」
まだ寝ぼけながら、目をあけずにが尋ねた。
は、覚えていない。
そうして明け方にみていた夢で何度も、愛しい人の名前を尋ねていたことを。
イザークはの頬に掌をあてた。
「俺はイザーク・ジュール。そしてお前は、・。」
「?!」
言葉のすぐあとに合わせられた、唇と唇。
その行為によって一気に覚醒したは、真っ赤な顔をしてイザークの左頬に強烈なビンタを浴びせた。
「―――つぅっ・・・・。」
イザークは、予想以上の痛みに顔をゆがめた。
「なにすんのよっ! イザーク!!」
怒りと恥ずかしさに顔を上気させて、はイザークをニラみつけていた。
の心の中は、とても複雑だった。
もちろん、イザークのことは好きだと思っていた。
それなのに、いきなりこの仕打ちとは、どういうことだろう。
記憶のない間に、自分はイザークに想いを伝えてしまっていたのだろうか?
だとしても、にはイザークの想いなんて、なにもわからない。
突然のキスが、どんな意味を持つのかも、にはわからないのだ。
そんなの反応を見て、面白そうに顔をほころばせるイザーク。
「ずいぶんと過剰反応だな、? さすがにこれは効いたぞ。」
キスをしたことへの後ろめたさもなく、イザークが言う。
「突然キスしといて、その高飛車な態度ってなに?!」
平静を装おうとしても、は真っ赤な自分の顔を押さえつけることができない。
何があったか知らないが、記憶のない相手に突然キスなんて行為は、絶対におかしい。
頭ではそう思いはしても、嬉しさがあることも事実で。
想いを寄せていた相手とのキスは、初めてではないような感触を残していた。
「明日退営する。そのつもりで荷物をまとめておけ。」
我に返る間もなく告げられたイザークの言葉に、はただポカンとするだけだった。
「はぁ?・・・でも私、ココ出ても行くところない―――・・・。」
「俺の家にこい。」
「はあぁ??」
さすがには、それ以上の言葉が浮かばなかった。
言うだけ言ってイザークは、部屋を出て行こうとする。
「あ・・・え?・・・イザーク?」
あっけにとられたままのが名前を呼ぶと、イザークは立ち止まった。
そして、振り返りもせずに一言告げると、そのまま部屋を出て行った。
告げられた言葉に、はまたさらに赤くなり、ベッドに身体をうずめた。
『 戦争も家柄もない。ただ、を愛している。 』
イザークの言葉が、のすべてを包んでいた。
嬉しいだけなのに、どうしてこんなに涙が出るのか、にはわからなかった。
―――これでいい。
イザークはの部屋から遠ざかりつつ、ひとり思う。
自分たちはまたここから、新しい関係をつくることができる。
前世に振り回される恋愛なんてごめんだ。
それでは新しく生まれてきたことの、意味がない。
今ここに、イザークは生きていて、も共に生きている。
また最初から、を愛せばいいのだ。
そしてにもまた、自分を愛していると言わせてみせる。
「悪いな、キラ。アスラン。俺はまた自信があるんだ。」
ライバルにポツリとつぶやくと、カツカツと小気味良い音をたてて、イザークは自室へ帰った。
また再び、めぐり逢えた奇跡。
最愛の人。
こうして出逢えたのだから、もう二度と離さない。
必然の出逢い。
すべてはそう、あなたと出逢うため。
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