「行くのか?」

ザクへ乗り込んでいくアスランに、イザークが声をかけた。
ここまできておいて今さら、とアスランは少し顔をしかめる。

「俺のいる場所が、ここにはもうない。」
アスランの答えを聞いて、イザークはもう揺るがない彼の決意を知る。

二人は最後に無言で握手を交わした。
別れの言葉も、再会の約束もしなかった。
ただ、もう二度と会うことがないと、魂は知っていた。











〔 必然の出逢い 〕
SCENE:23 −目覚める運命−










イザークと別れてから三年後。
アスランは目の前で展開するソーラ・システムに身震いしていた。
スロットルのレバーを握る手が、かすかに震えている。

三年前、が焼かれたあの光が、今また自分に向けられていた。
「そうやってまたお前たちは・・・・を殺すのか・・・・・。」
コックピットの中で、アスランはひとりつぶやいた。

アクシズ行きを拒み、デラーズの艦隊再編成に加わったアスラン。
連邦のガンダム開発計画を察知し、機体を奪取するも多勢に無勢。
後ろ盾を持たないデラーズ・フリートは、もともと玉砕覚悟だった。


「アスラン。」
電波状況が悪いなか、機体に通信が入る。
銀色の長い髪をうしろでひとつにしばり、意志の強いまなざしで、ガトーがアスランを見ていた。
「ああ、いこう。」

アスランの答えを聞いて、がトーはそれ以上何も言わずに通信を切る。
アスランの目に、がトーのプラチナブロンドが焼きついていた。
それは、何も言わずともイザークを思い出す色だった。


自分が一番大切なものを、アスランは見つけられなかった。
「イザーク。キラ。・・・・・。」
加速していく機体は、がトーのノイエ・ジールに勝るとも劣らない。
自分たちの三倍、四倍もの艦隊の中に、アスランは突っ込んでいった。

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

ソーラ・システムは、何度でも彼の中のを殺す。
自分が何もできなかったことを、思い知らされる。
こんな後悔を引きずって生きるよりも、アスランは命を燃やす道を選んだ。

デラーズ・フリート。
作戦名は、「星の屑」
彼らの運命は、その作戦名そのものだった。




何かが途切れた音がした。
は、あの亜空間の中でひとり、泣いていた。

戦い。
それはいつだって、人間の命をもてあそぶ。
翻弄されるように運命が転がって、終わる。

自分が死んでから、哀しいとしか言いようがない運命をたどった者たち。
生まれ変わってもなお、その哀しみを背負わされた者たち。

両手で顔をおおっていたは、ゆっくりその手を離した。
「でも・・・・・。」
の見すえる先には、シャアがいた。

「終わったんです。戦争は、終わったんです。」
勝敗のつかなかった、ナチュラルとコーディネーターの争い。
連合も、ザフトも、戦いがただむなしいだけのものと知った。

「私たち、今度は死ななかった。だって・・・・。生まれ変わったんだから。」
の言葉に、シャアがうなずいた。


彼らの運命を変えてしまったもの。
それは自分。
彼らに哀しみを背負わせてしまったもの。
それは自分。
なら、自分に今できることはなんだろう。
どうなることが、彼らを救える道になるんだろう。


は、急に何かに思い当たり、シャアを見た。
すべてを知ったうえで、その道が選べるのかはわからない。
けれど、もし、彼のようになれたら―――・・・。

シャアは仮面の下で笑い、その姿をギュランダルへと変えた。
ギュランダルのさす方向に、光が見える。
はひとつうなずくと、その光へと進んでいった。




「あれ・・・・? 医務室?」
突然聞こえてきたの言葉に、そこにいた誰もが驚いた。
「あ、そうだ。倒れたんだっけ? 私。」
何気なくイザークたちのほうを見て、は呆然としている三人に気づく。

「どうしたの? 私、そんなに気を失って・・・・。あれ?」
と三人の間に、おかしな空気が流れていた。
キラがおそるおそるに聞く。

? 目、見えるの?」
「目?」
はキラの言葉に目を丸くした。

「ねぇ、ここ、どこ? 私、ボルテールの医務室に運ばれたんだよねぇ?」
今度はの言葉に、三人が目を丸くする番だった。


目覚めたには、記憶がすっかりなかったのだ。
前世の記憶はもちろん、現世でイザークと想いを通わせたことすら、覚えていなかった。

停戦、と聞いてミーティング中に倒れたあの日が、の最後の記憶だった。





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