地球連邦政府とジオン共和国臨時政府は、月のグラナダで終戦協定を結んだ。
あわただしくおこなわれた、その後の戦後処理。
戦後裁判は、どれも連邦寄りの判決となる。
つまり。
キラを使い、ソロモン攻略の黒幕となっていたイザークの元婚約者一族は、無罪。
むしろ、これが決定的に戦争を終わらせたのだと、賞賛された。
傍聴席に座るイザークは、握り締めた拳から血がにじんでいた。
アスランは、どこまでも冷めた目でその判決を聞いた。
「は・・・・。キラは・・・・ッ」
それ以上怒りで言葉をつなげずに、イザークは唇を噛みしめた。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:22 −私欲の制裁−
さすがにこの判決は、ジオン内部でも対応に困っていた。
自国にとっては裏切り者となるはずのものが、無罪。
だが、一族もやはり複雑だったのだろう。
彼らはジオンのコロニーを捨て、地球へ降りることを選んだ。
極秘のうちにシャトルが用意され、静かに出発を待つ。
関係者以外立ち入れないその場所には、イザークの姿があった。
鬼神のごときその姿に、声をかけられる者はいなかった。
イザークがシャトルへ乗り込むと、女が一人、彼の前に立った。
かつて、妻と呼ばれていた女だった。
「イザーク様・・・・。」
彼女は彼が何をしに、ここへ乗り込んできたのかを悟った。
彼女はすべて知っていた。
イザークに必要とされていないことも。
イザークに愛する人がいたことも。
ある意味では、彼女自身も被害者だった。
イザークは彼女を見ると、今まで一度も見せたことのないほど穏やかな顔をした。
「あなたには、大変申し訳ないことをしました。」
「いいえ。・・・・いいえ! イザーク様にこそ・・・・。」
彼女は蝶よ花よと育てられたであろう令嬢だったが、頭の悪い女ではなかった。
おそらく、こんな出会いでなければ、イザークでさえ好感を持てた女性だっただろう。
彼女はこれから起こるであろう事を予想して、泣き崩れた。
イザークはシャトルの中に靴音を響かせながら、その男に近づいた。
「貴様は逃げる気か? キラを、利用するだけ利用して。」
カチャリ、と金属音が続き、銃声が響いた。
相手の言葉など何も聞かずに、イザークはその男を撃った。
鮮血が飛び散り、イザークの頬にも返り血がつく。
汚らわしいものを払うかのようにその血をぬぐうと、イザークはその場を後にした。
「情勢が混乱しているとはいえ、私刑は禁止だ。イザーク。」
エザリアは机の前に我が息子を立たせて切り出した。
臨時政府の役員におされていた彼女の立場は、本来イザークに処罰を与えなければならない立場だった。
「あの件は事故死ということで処理が済んだ。」
母の言葉に、イザークは信じられないと驚愕した。
「どういうことですか?! 母上!」
エザリアは息子をいちべつすると、あえて無表情で言った。
「助かったのも事実なのだ。あいつの存在は連邦側でも処置に困っていたからな。」
裏切り者は、所詮裏切り者。
やりきれない思いだけが、イザークの中に残った。
これで。・・・・・かたきはとれたのか?
。
キラ。
答えなど、はじめからなかった。
失われたものが、戻ることはない。
「だめ・・・・。イザーク、だめだよ。・・・・違うよ。」
苦しげなの声が、静まった部屋にこぼれた。
「?!」
イザークが、キラが、アスランが、あわてての元に駆け寄る。
が、意識が戻った様子はない。
「まだ、みているのか。前世を。」
イザークがため息をついた。
おそらく、自分がしたことをもは知るのだろう。
身勝手に、あの男を殺した。
のかたき。
キラのかたき。
けれど、殺したのは自分のためだった。
そのあとのことは、思い出せていない。
“イザーク”がそのあとどう生きたのか、イザークが知ることはなかった。
“アスラン”ともそのあと別れ、いかに無機質に生きたことだろう。
おそらく、思い出すにも値しない記憶でしかないのだろう。
イザークがを見ると、の閉じた瞳から涙が流れた。
なぜだかその涙に後ろめたさを感じて、涙をぬぐった。
イザークの手がに触れたときようやく、が少し、笑った気がした。
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