ア・バオア・クーは、ジオンに残された最後の要塞だった。
この要塞が連邦に落ちるより早く、ザビ家の肉親による争いで現ジオン政権は崩壊した。

ア・バオア・クー、陥落。
一年戦争は、こうして終結した。











〔 必然の出逢い 〕
SCENE:21 −自由の女神−










!・・・おい、返事をしろ!」
イザークはの身体を揺さぶる。
けれどは、呼吸だけは正しくしているものの、意識を戻すことはしなかった。

「約束を・・・守ると言っただろうが!」
イザークのうしろで、アスランとキラが力なく肩を落としていた。
イザークと同じ行動を、二人もとっくにとったあとだった。

が目覚めない。
視力を失い、“”の知るはずのない前世を見るようになって、数日。
うつらうつらとしていたの意識が、ついに途切れてしまった。
意識が戻らずに、もう三日が過ぎていた。

身体を医務室に移し、脳波に異常がないことはわかっても、の意識は戻らない。
寄宿舎に戻ってきたイザークは、急変した事態に動揺を隠せなかった。

”が死んでからのことを、が知ったこと。
視力を失っていること。
意識が戻らないこと。

何よりも伝えたいことを、胸に秘めて帰ってきたというのに・・・・・。
ベッドの上で眠るをまた、永遠に失ってしまう恐怖に震えた。

「返事を・・・しろ! !」
キラは、意識のないに必死に呼びかけているイザークを、無言で見ていた。


イザークはいつも情に厚くて、まっすぐで、自分にないものばかりを持っている。
“キラ”の死の間際にも、恋敵である自分を『助けたい』と言ってくれた。
前世を思い出してもなお、昔の自分とは違った自分を生きるのだと、イザークは教えてくれた。

アスランは、軍服の袖口を強くひっぱられ、キラに目をむけた。
当のキラはアスランの袖口を握り締めたまま、イザークを見ていた。

「キラ?」
声をかけると、キラの目からひとしずく、涙がこぼれた。
「おい、キラ?!」

「・・・・・ごめん・・・・。ごめんね、イザーク。アスラン。」
流れ出した涙は、懺悔の思いのように止まらなかった。
「僕・・・っ・・・僕は・・・・っ」

「キラ。」
その場に座りこんだキラを、心配そうに見やるアスラン。
イザークもの傍を離れて、キラの元へひざまずいた。

が・・・・好き。今も、昔も、ただそれだけだったんだ。」
泣き崩れるキラの肩に、イザークが手を乗せた。
アスランは保護者のような顔をして、キラに笑顔を見せた。

それは、キラが“キラ”から解放された瞬間だった。
イザークがもたらした知らせは、前世に囚われ続けたキラをも変えたのだ。



「俺の報告を聞いて、母上はこの上ない笑顔を見せたぞ。」
恐ろしいほどのな、と付け足しながらイザークが言った。
は、ザフトの女神として有名なんだそうだ。」
そう言って一呼吸置いてイザークは、キラを見た。
「何でも、あのフリーダムの守護女神だそうだ。」

「僕の?」
イザークに不本意そうな笑みをむけられ、まだ涙の乾かないままでキラは聞き返した。

連合にまで知れ渡る、伝説的な強さのフリーダム。
希少な女性パイロットのは、そのフリーダムを守護する女神のように称されていたのだ。
知らぬは本人たちばかり。
今やプラントでの存在を知らない者はいないという。
ザフトの広告塔として祭り上げられていたは、当然エザリアにも存在を知られていた。

「シーゲル様が議長の座を退いたのも幸いだった。母上は身寄りのないの後ろ盾につく準備を始めた。」
「そう・・・・。」
まだ、断ち切れない思いを残しながら、キラは目を伏せた。

いよいよは、手の届かないところへいってしまう。
けれど、これでいいのだ。
の幸せを、一番に願っているのは、今も昔も変わらないから。

「これもキラのおかげだ。」
イザークが少し憮然として言うと、アスランが苦笑いをした。
「ああ。そうだな。」
キラだけが、事態を飲みこめずにいた。

「どういうこと?」
イザークは屈辱に顔を引きつらせながらも言った。
「お前がフリーダムに乗ってあそこまで圧倒的な力を誇示したからこそ、の評価につながったということだ。」
「イザークと機体交換したのは、正解だったな。キラ?」

アスランの言葉に、キラはようやく事態を飲みこむ。
「ア〜ス〜ラぁン〜〜!! 貴様は一言多い!!」
「本当のことだろう?」
「うるさい! 俺が乗っていたってキラくらいの成果は―――・・・!」

いつまでも続く二人の言い争いを聞きながら、キラはくすくすと笑い出した。
笑いながら、涙がこみ上げてきた。
こんな自分が、やっと、のために何かができた。
それがとても、誇らしくて。


早く、目をあけて、
君の幸せが、ここにあるよ。





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