「そんな・・・っ、キラ?!・・・・・どうして、自殺なんて・・・・っ!」

はその光景に、思わず顔を手でおおった。

―――― ドッ ――――

キラの身体が、冷たい床に横たわる。
彼の最期を知る者は、いない。










〔 必然の出逢い 〕
SCENE:19 −末路−











「見えない?・・・本当に見えないのか?」
アスランがの顔をまじまじとのぞきこんだ。
アスランから事の重大さを聞かされたキラも、の目の前に手をかざす。
は、焦点の定まらない目を、ただ開いているだけだった。

「とにかく医者を呼ぶ。キラはについていてくれ。」
てきぱきと指示を出して、アスランが部屋を飛び出していった。


「―――キラ?」
は見えない目で、探るようにキラを探す。
伸ばされた手をつかんで、キラが答える。
「ここだよ、。」

その声を聞いて、は安堵のため息をついた。
昨日見た残像が、の中に住みついていた。
はキラのぬくもりを信じながら、唇をキュッと噛んだ。
そして。

「―――どうして自分で死んだりしたの? ばかだよ、キラ。」
その残像を本人に伝えた。

「え?」
の手を握っていたキラの手から、力が抜け落ちた。

「先に死んだ私が言うことじゃないけど、自殺なんてやり方、絶対ダメだよ。」
「なんで・・・・。が知ってるの・・・・?」
驚愕するキラに、は穏やかに告げる。
「見られるの、私。前世の残像。キラの最期は・・・・、昨日見たよ。」

キラの顔色が変わる。
けれどには、それすら見えていなかった。

「残像が見られるようになったら、こっちが見えなくなっちゃった。不便だな。」
思いもよらなかった事態に、キラは動揺が隠せなかった。
が、“キラ”の最期を知るなんて、思うこともなかった。



ソロモンは、連邦の手に落ちた。
当初からささやかれていた内通者が捕らえられたと聞いたイザークもアスランも、その人物の名を聞いて耳を疑った。
スパイとして捕らえられたのは、キラだった。


「だめじゃない? 君たちみたいなエリートが、反逆者に会いにきたら。」
独房の中にいるキラが、くすくすと笑う。
アスランはその様子に、身体中がぞくりと音をたてた気がした。
キラの目はすでに、狂気に取り付かれていた。

「キラ。なぜ連邦と通じた? お前がなぜ?!」
イザークが鉄格子に手をかけ、激しく尋ねた。
キラはゆっくりイザークに目をむけると、低く答えた。

「・・・・簡単だよ。あいつらを利用して、イザークの存在を消したかった。」

イザークは頬に、冷たい空気を感じた。
キラはなおも低い声で、言葉を続けた。
から、君を消したかった。でも・・・・、が消えちゃった。」
は・・・お前を愛した。キラを助けて死んだ。が最期に選んでいたのは、キラだろうがっ!」


イザークには、最期に魂となったと交わした言葉があった。

 『 愛していました。 』

はそう、言ったのだ。
過去形で自分に伝えたのだ。
道をたがえたイザークとは、もう過去なのだ。


「違うね。」
けれどキラは、それを冷ややかに否定した。
「最期の最後まで、イザークという存在がから消えることなんてなかった。
 僕は、の淋しさを紛らわせただけだ。」

キラも鉄格子の側に近寄る。
イザークとキラは、格子を挟んでニラみあった。

「やめろ! キラもイザークも!」
見かねてアスランが声をあげた。
キラはそんなアスランをいちべつすると、ポツリとつぶやいた。

「アスランだって、が好きだったんでしょ?」
「キラ!」
唐突に告げられた言葉に、動揺するアスラン。
も・・・・・、僕じゃなくても良かったかもね。残念だった? アスラン。」

ガシャンッと大きな音がした。
イザークはその光景に目を見張った。
アスランが、鉄格子を殴りつけていた。

「それ以上を侮辱するなら、俺がお前を殺す!」
めずらしく感情をむき出しにしたアスランは、キラに告げると足音も荒々しく退出した。
アスランの迫力に落ち着きを取り戻したイザークは、ため息をつきながらキラを見た。

「キラがなんと言おうと、はお前を愛していた。――こんな結果、が悲しむ。」
「ふぅん・・・・。」
キラはその場に座りこみ、ぼんやりと天井を見上げていた。

「キラを助けたいと思う俺は、どうすればいい?」

思いもよらない言葉に、さすがにキラはイザークを見た。
イザークは、まっすぐキラを見ていた。
その目は、キラがずっと憧れてきた、力強いものだった。






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