新議長に就任したのは、遺伝子研究を専門分野とするギルバート・ギュランダル。
別名“喰えないタヌキ”だと称したのは、アスランのかつての上官、タリア・グラディス。
議長就任の騒ぎが一段落したら、近々結婚をするらしい。
はTVを眺めながら、ため息をついた。
他人を祝福できるような心境になれない自分が、とても嫌だった。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:18 −記憶の残像−
「私は、ナチュラルもコーディネーターもなく、人類すべてが幸せに過ごせる世界を維持していく所存です。」
TVでは、ギュランダル新議長の所信表明が映し出されていた。
アスランが部屋から出て行ったあとも、は一人で何の気なしにそれを眺めていた。
新議長の演説を聞いているうち、には奇妙な違和感が湧いてきた。
この声も、話し方も、自分は知っている?
そう思えてならなかった。
いくらの記憶をたどってみても、ギュランダル議長その人との接点は、ない。
つまりそれは、前世の“”が記憶している人物、ということだろうか?
とたん、の頭の中がズキズキと痛みだした。
ここ何日か、きちんと寝た覚えがない。
いろいろなことが多すぎて、睡眠すらまともにとっていなかったことに、は気づく。
まだ眠りにつくには早すぎる時間だったが、は早々に眠ることにした。
今日はなんだか、ゆっくり眠れるような気がした。
眠りにつく直前までTVを見ていたせいか、目を閉じてもなお、ギュランダル議長の声が聞こえた。
「・・・・・・・。」
ぼんやりと、には自分を呼ぶ声が聞こえた。
目を開くと、自分の部屋ではない亜空間にいるようだった。
「私・・・・夢を・・・・?」
は暖色の壁に囲まれたような、亜空間に浮いていた。
どちらが上で、下なのか、それもわからない。
「。」
今度はよりはっきりと、自分を呼ぶ声がした。
驚いて振り返るとそこには、新議長となったギルバート・ギュランダルの姿があった。
「どうして?」
これは夢だ。
ただの夢だと言い聞かせている。
その一方で、ただの夢なんかではないと、身を構えているもいた。
目の前に立つギュランダルは、そんなにすべてを見通した笑みを浮かべる。
「君が、私を呼んでいた。私に問いかけていただろう?」
ギュランダルの言葉に、はますます身を固くした。
「私がどうして前世と違う姿なのか、君は知りたい。・・・・違うかな?」
もうこれは、ただの夢ではない。
は震える口を開いた。
「やっぱり・・・・あなたは・・・・・。」
「いいや。違うよ? 。」
の言葉をさえぎって、ギュランダルが答えた。
「私は前世の記憶など覚えてはいない。これは君の魂が呼び出した・・・・・そう、残像と言ったほうがいいかな?」
言葉を続けながら、目の前に立つギュランダルが、ゆっくりと姿を変えだした。
黒い髪が、鮮やかな金色に変わる。
はそれを、息をのんで見守った。
違和感すら感じないその仮面の人は、“”の記憶の中の人、そのものだった。
「――――シャア大佐・・・・・。」
が名前を呼ぶと、彼は口元をわずかにほころばせた。
「そう。私はかつてシャア・アズナブルと呼ばれていた。」
ジオンの赤い彗星。
輝かしい功績を持つ彼は、などが軽々しく話をできる相手ではなかった。
けれど一度だけ、彼から話しかけられたことがあった。
『君は、ニュータイプだね?』と。
そのシャアが、の前に立っていた。
「君たちは、還る場所に戻れなかった。だから今も、その記憶を捨てられない。」
優しく穏やかな、それでいて鋭いシャアの声。
ギュランダルが前世から受け継いだのは、これだけだった。
「幸か不幸か、私は還る場所を持たなかった。私の人生は、彼と死ぬことですべてが終わった。」
シャアの言う“彼”が誰のことなのか、にはわからなかった。
けれどシャアがシャアとしての人生を終え、魂をギュランダルへと移せたこと。その理由がわかった気がした。
目に強い光を宿したに、シャアが言った。
「すべてを受けとめることが、君にはできるかな? 君が死んでからの彼らの姿を、知る勇気が?」
「―――はい。」
は、ようやく知った。
彼らを遺して、先に命を絶ってしまった自分。
それが、自分の逃げだったことを。
彼らを守れた気になって、自分だけ苦しみから逃れた。
遺される者の悲しみや想いなど、考えもせずに。
の答えに、シャアは満足そうに笑う。
「そうか。ならば君にはみえるだろう?」
残像。
記憶の残像。
は、ニュータイプの感性でそれをたぐり寄せた。
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【あとがき】
ただ、シャアにクワトロのセリフを言わせたかっただけだったり・・・。
本当は名前を出さないでいようと思ってたんですけどね、シャア様。
ライナの文才ではムリでした。
だってここで『仮面の金髪』っていったら、クルーゼになっちゃうじゃないですか!
ちなみにシャアの言う『彼』は、皆さんご存知のアムロです。
逆襲のシャアで二人は死んでいないという人は、スルーしてください。ごめんなさい。