「を、悲しませることはもうしない。・・キラ。俺を信じてくれ。」
「信じる?・・・・・ムリだよ、そんなこと。」
「キラ! お前は前世に囚われすぎている。俺は俺だ。前世の“イザーク”じゃない!」
キラの記憶が、鎖のようにキラを締めつけている。
イザークは、キラを救いたかった。
今度こそ。
前世の“キラ”が、ゆがんだ心を持っていてもなお、“”を本当に愛していたと、知っていたから。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:16 −後悔も迷いも−
「“”が死んだのは、僕のせいだ。僕はずっと、それに苦しんできた。」
生まれ変わったのに。
また、望めば手が届くところに、がいたのに。
この記憶のせいで、手を伸ばせないでいた。
アスランが、“アスラン”の記憶をもっていて。
イザークが、“イザーク”の記憶をもっていて。
が、“”の記憶をもっている。
それなら、また、同じことが起きてしまうんじゃないの?
僕はまた、を殺してしまうんじゃないの?
自分の中の“キラ”に、キラはずっと怯えていた。
いつしか意識は“キラ”に乗っ取られ、キラは自分を見失った。
自分の中から、“キラ”が消えない。
苦しかった。
に名前を呼ばれるたび、それが今のキラを呼ぶものなのか、昔の“キラ”を呼ぶものなのか。
わからなくなるほどに。
「キラ・・・・。もう俺も、お前に間違えてほしくないんだ。」
アスランがイザークに続いた。
アスランもまた、前世の自分に苦しんだ一人だ。
相手の気持ちを尊重してしまうがゆえに、自分の気持ちを押し殺してきた。
今も昔も、にその想いすら告げず、傍にいた。
目覚めてしまったニュータイプの感性は、“”の気持ちをダイレクトに感じてしまった。
だから言えずに、想いを胸にしまった。
を見守ること、が、いつの時代もアスランが選んだ答えだった。
「は、“”の最期を思い出したとき、幸せだったと、言っていた。」
「え――――?」
「思い出したのか、。」
アスランの問いかけに無言でうなずいたイザークは、そのままキラへ顔をむけた。
「俺とお前を守れて、幸せだったそうだ。」
「それは・・・・。があの戦争の根源を知らないから言えるんだ。」
「あぁ、そうだ。は知らない。そして、思い出すこともない。」
「知っているのは、俺とイザークと、キラだけだ。」
アスランの言葉に、キラは黙りこんだ。
が思い出すことはない。
それで終わりにしてしまって、本当にいいのだろうか。
誰もが下を向き、考えをめぐらせていた。
沈黙の続くアスランとキラの部屋に入ってきたのは、だった。
「キラ!」
「・・・・。」
は同じ部屋にいるイザークにもアスランにも目をくれず、キラに歩み寄った。
「ごめんなさい。私、やっと思い出したの。」
かつては恋人だった“”と“キラ”。
たとえそれが淋しさから生まれた関係だったとしても、“”が“キラ”を想っていたことにウソはない。
「“”が、最期に“キラ”に届けたかった想いがあるの。あなたに、届かなかった言葉を伝えてって、“”が・・・。」
キラの中に眠る“キラ”。
“”の想いが、・・・・届きますか?
「『 キラの優しさが、私の安らぎのすべてだった。ありがとう、キラ。 』」
「“”――――?」
その言葉を告げたのは確かにだった。
けれどキラには、の身体を媒体にして“”が言葉を告げた錯覚におちいった。
“イザーク”がいなくなって、“”の淋しさを救いたくて、自分のプライドを捨てた“キラ”。
“”が傍にいてくれるなら、なんでもよかった。
けど、遠くからでも“イザーク”を見かけては、切なげに目を伏せる“”が、“キラ”の心を締めつけた。
僕を、みて。
僕だけを、愛して。
“イザーク”を、忘れなくていいと言った“キラ”。
それでも、自分を選んでほしくて・・・・。
“イザーク”がいても、
“イザーク”が自由になっても、
“”は、自分を選んでくれるだろうか。
“”との関係が親密になるにつれて、“キラ”の中に生まれた葛藤。
“キラ”が出した答え―――。
「。・・・・君に、言わなくちゃいけないことがあるんだ。」
もう、ウソをついていたくない。
キラも“キラ”も、これほどまでにを想っているのだから。
「連邦のソロモン侵攻。内通者の存在が疑われていたのを、覚えてるよね?」
「・・・・うん。」
「キラ?! 今さらそれは・・・・!」
イザークが止めようと声をかけるが、アスランがそれを止めた。
首を振り、無言でイザークに伝える。
キラが先へ進むために、この告白は必要なのだ、と。
「連邦と通じてたのは、僕だ。君の目を焼いて、君の命を奪ったのは、僕なんだ。」
「うそ・・・・でしょう?・・・・キラ、どうして・・・・?」
言葉の訂正を求めるように、はイザークとアスランを見た。
イザークは目をそらし、アスランはと目を合わせると、ただうなずいた。
後悔なんて、いつだってしてたよ。
だけど、
ソーラーシステムが、君に向かって光を放つなんてこと、
考えてもいなかったんだ。
まさか君の命を奪うなんて、思いもしてなかったんだ・・・・。
僕は、ただ、“”の幸せを、
守りたかっただけなんだ――――・・・・・。
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