闇。
その先を思い出そうとしても、何も浮かんではこない。
そうか。
私は、こうして死んだんだ。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:15 −最期の記憶−
警告音がコックピットに響く中、は機体をひるがえし、逆に敵機を撃墜した。
「キラ!」
自分のものではない声に振り向くと、ザクが一機、黒煙を上げていた。
キラの名を呼びつつイザークが、連邦のモビルスーツを撃ち落した。
「がロックオンされて、ちょっと慌てちゃったみたいだ。」
外傷はあるものの、コックピットには何も影響をおよレしていないのだろう。
キラは少しも動じず、いつもの調子で告げる。
は安堵のため息を漏らした。
けれど落ちつく間もなく、再び警告音が鳴る。
とっさにイザークは、動けないキラの機体をかばうように立ちはだかった。
が敵機を撃墜する。
もう一刻の猶予もないことは、痛いほどわかっていた。
「イザーク。キラを連れて帰投して。」
ビームサーベルを抜き放ち、が前に出る。
「それから報告を。ソロモンにむかって、ソーラーシステムが照射を整えてるって。」
言葉を交わしながら、バーニアの稼働速度を上げていく。
「ちょっと? どうしてイザークなの?」
キラが不満そうに声をあげた。
「イザークのザクは、エネルギーが切れてる。」
二度目の警告音のときに銃を構えなかっただけで、それを見抜いていた。
それでは戦えない。
三機で宙域を離脱するよりは、一機が囮になったほうが確実に離脱できる。
そう判断するのは、軍人として当然だった。
「しかし・・・・ッ」
イザークが言いよどんでも、何が出来るわけでもなかった。
が言ったとおり、ザクのエネルギーは切れている。
ビームサーベルも、ライフルも使えない。
「すぐに私も戻るから。イザーク。・・・・・キラをお願い。」
母艦に帰投していくイザークとキラのコックピットに、激しいほどの閃光が飛びこんできた。
光は、そのままソロモンを直撃する。
その光景にしばらく心を奪われていたイザークは、ハッと我に返る。
は―――どこだ?
キラを母艦にとどけると、イザークは単身宙域へ飛び出した。
ソロモンが連邦に制圧さようと、もうそんなことは頭から吹き飛んでいた。
きっと宙域を離脱している。
が、あんなヤツらにやられることなんて、ありえない。
バーニアを最大まで加速する。
嫌な汗が、イザークの頬を伝う。
『イザーク。』
突然頭の中に直接響いたその声は、まぎれもなくのものだった。
ザクに制動をかけ、モニターの中に同機体を探すも見つからない。
『イザーク。』
もう一度、きらめきのように声が届く。
それは、ニュータイプ同士が持つ、感情の伝え方だった。
一瞬のきらめきと、直感を強く持った者、ニュータイプ。
人の言葉ではなく、その想いだけで会話が出来ることも、特殊能力のひとつだ。
『よかった・・・・。あなたは、無事なのね?』
イザークの前に、が姿を現した。
その映像はイザークの頭の中に、声と共にあった。
「どういう・・・ことだ?・・・・?」
けれどは、イザークの問いには答えなかった。
『ありがとう、イザーク。私・・・あなたを・・・・。』
きらめきにつつまれて、の姿が消えた。
その顔が、とても穏やかだった。
ソーラーシステムに焼かれ、爆散したと思われるの機体は、結局見つからなかった。
その日、ソロモンは連邦の手に落ちて、要塞名を“コンペイトウ”と改称された。
イザークの胸の中には、の言葉が刻まれた。
―――― 『 私、あなたを、愛していました。』 ――――
の最期に、魂が寄り添えたことを、幸せに感じるべきだろうか。
後悔はすでに、遅すぎたのだから。
「照射されたソーラーシステムで、目を焼かれた。そして、胸を貫かれた。」
唇が離れると、は物語を語るように“”の最期を語った。
「おい・・・っ?!」
「直前まで戦闘してた。あれは・・・連邦のジム。悔しかったな・・・。」
これが“”の記憶。
“キラ”と“イザーク”の囮になって、その命を散らせた、“”の最期。
「でも、“”の心は幸せだった。“キラ”と“イザーク”を守れて、幸せだった。」
「そう・・・か・・・。」
ギクシャクした笑いしか、イザークはうかべることができずにいた。
“”が死んでからの、“イザーク”と“キラ”と“アスラン”。
守られたことを、幸せと思えなかった彼らを知っている。
「今度は俺が、幸せにしてみせる。」
イザークの力強い言葉に、はようやく笑顔でうなずいた。
幸せになろうね。
“”。
心の中に住む、もうひとりの自分に、そうささやいた。
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【あとがき】
遺されたほうがつらいと思う。
死んでしまったら、それで終わりだから。