誰よりも守りたかった。
本当は俺が、自分でを守りたかった。

だが、あの結婚を受けなければ、が殺されていた。
どこからか漏れていた俺との関係は、当然母にも知られていた。

“家”をとったのだと、俺を恨んでくれることが本望だった。
それでが、またどこかで笑ってくれているなら、俺は・・・・・。











〔 必然の出逢い 〕
SCENE:14 −現世と前世−










ボルテールはアプリリウスへ帰還した。
一部ではザフト解隊のウワサもささやかれていた。
すでに多くの隊員が休暇を申請し、帰省していた。
寄宿舎は、人々の声もまばらにしか聞こえてこない。

の部屋に軽いノックの音がして、扉が開いた。
ベッドの上で、がぼんやりと視線をむけると、入ってきたのはイザークだった。

。話を聞いてほしい。」
「婚約。・・・するの?」

地球でいえば、まだ朝もやのかかる時間だろう。
イザークには似合いの時間だなと、は思った。
まったく関係のないことを考えていなければ、泣いてしまいそうだった。

「ちがう。・・本当にお前は何を聞いているんだ? それとも、そんなにザクに夢中だったのか?」
「え?」
「言っただろうが、俺は。前世の“”と約束したと。」

“イザーク”に触れた最後の日、“”が言った。


 『 生まれ変わったときには、“戦争”も“家”もなく、私を愛して。 』
――――“戦争”も“家”もなく。


「婚約を受けるつもりはない。もう、あの頃とは違う。」

“イザーク”が守りたかった“”。
けれどそれを間違いだったと知ったときには、遅すぎた。
“キラ”のとなりに“”を見つけて、締め付けられた胸。
誰かのとなりで笑う“”は、“イザーク”では守れない。


「だからもう、どこにも行くな。」
今度こそ、死なせはしない。
戦争がこうして終わったのだから。
すべてが前世の通りになんて、なるはずがない。

知っていたら、イザークはに触れただろうか。
あわせた唇から、揺り動かされる記憶があることを―――・・・。



!」
閉まりかけていたコックピットに、屈託ない笑顔のキラが顔をのぞかせる。
準備を中断して、は恋人とむかい合う。

「どうしたの? キラ。」
「うん。・・・ちょっと、話がしたくて。」
とてものん気に話などしていられる状況にもかかわらず、キラが言った。
くすくすと笑うの笑顔が、キラの次の言葉に凍りつく。

「もしもイザークが結婚なんてしなければ、はこうして僕と一緒にはいなかったんだよね?」
「・・・・・何・・・・言って・・・・・。キラ?」
「うん。わかってる。それでいいって言ったのは、僕だから。」
「やめてよ! 私・・・・今はキラのこと・・・・。」

唇をキュッと噛みしめて、が口ごもる。
キラは穏やかに笑っていた。
「もう一度選べたら、はどっちを選ぶかな?」
「キラ!」

を試すように話を終わりにしないキラに、はいらだつ。
問いただすことをやめたキラは、に想いを告げる。

「好きだよ、。本当に、好きだよ。」

うって変わったキラの態度に戸惑いつつも、はほほ笑み、ハッチを閉じる。
キラの気持ちが不安定なのは、今に始まったことではないのだ。

けたたましくアラートが鳴り響く。
ソロモン攻略作戦を、なんとしても防衛しなければならなかった。
全軍に下る出撃命令。
同じザクに搭乗する、、キラ、アスラン、イザーク。
星屑のように要塞から飛び出すモビルスーツ。


幾多の敵を闇に沈めて、は胸騒ぎを覚えた。
心のざわめきを信じ、ザクをひるがえす。

「なに・・・・これ・・・・?」
ザクのメインカメラの映像に、は息をのむ。
巨大なソーラーシステムが、ソロモンに照準を定めていた。

「報告・・・っ」
パチパチとキーボードをたたいても、司令本部は何も答えない。
エリア一帯が電波妨害されていたのだ。
これでは戻るしか方法がない。

がスロットルのレバーを握りしめたとき、声が同時にコックピットへ届いた。

「「 ! 」」

昔の恋人と、今の恋人。
二つの機体が、闇の中を駆けてくる。

宙域に展開する友軍機のほとんどが、たちの機体のザクだ。
なのに・・・。
「キラもイザークも、どうしてその中から私を見つけるの?」
コックピットの中で、は一人つぶやいた。

「なんだ・・? これは・・・ッ!」
「連邦の、ソーラーシステム・・・。」
イザークの驚愕した声と、キラの確認をとるかのように冷静な声。
こんな時までも落ち着き払っているキラに、は違和感さえ覚えた。

の機体を、敵機からのロックオンを告げるアラートがかけ抜けた。
ソーラーシステムを護衛する連邦のモビルスーツが数機、こちらに展開していた。

「「 ッ 」」

キラとイザークの悲痛な叫び声が、ソロモンにこだまする。






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