私を救ってくれたイザークを、苦しめたくなかった。
重荷になりたくはなかったの。

連邦のコロニーへかけた奇襲作戦で、私の両親はコロニーと一緒に地球へ落ち、死亡した。
ジーク・ジオン。
ジオンのために散っていった命を、誇りに思えと言われた。

――――思えなかった。

そんな私を救ってくれたのが、イザーク、あなただったのよ?











〔 必然の出逢い 〕
SCENE:13 −交差する想い−










「いやっ ひとりにして! 入ってこないでよっ!」
イザークの部屋から振り向きざま逃げ出したは、自室に閉じこもって泣き叫ぶ。
その扉の向こうでは、アスランが負けじとドアのロックを解除しようと苦戦していた。
「そんな状態のままで、一人になんてできるか!」

数分で解除されてしまったドアから、アスランが部屋に飛びこんでくる。
は涙でぐしゃぐしゃになった顔で、キッとアスランとニラみつけた。

は、どうしていつも一人で抱えこむんだ。」

・・・・・も、“”も。

アスランはうって変わって優しげな表情になると、とたんベッドの上のを抱きしめた。
「え―――?」
力の入らないの身体に、アスランの腕が力強く絡まる。

「泣きたいなら、俺のところで泣けばいい。」
アスランの優しい声に、は素直に涙をこぼした。

また、あきらめなくてはならないのだろうか。
また、同じ苦しみを味わうのだろうか。
前世と現世は、こうしてつながってしまうものなのだろうか・・・・。


「―――その手を離してくれない? アスラン。」
開いたままの扉から、キラの声がした。
その冷たい声に、アスランばかりかまでも身体をこわばらせた。

キラは腕を組んだまま、ドアにもたれかかり二人を見ていた。
スローモーションのようにゆっくりとその腕をほどくと、二人に向かって歩みを寄せる。

「ねぇ? アスラン。それは僕の役目だったよね?」
「キラ・・・・ッ」
「・・・・・キラ?」

キラはまるでアスランからをとりあげるように、二人の間に割りこんだ。
「“あのとき”も、君はそうやって一人で泣いてたね。」

キラの脳裏に浮かぶのは、“イザーク”が結婚を決めた日の“”の姿。
声もあげずにただひとり、涙をこぼしていたあの姿だ。

「キ・・・ラ・・?」
妖しげな笑みを浮かべたキラに頬を撫でられて、にはまたぞくりとしたものが流れこんでくる。
それが前世の記憶であることを、はもう知っていた。

「“僕じゃ、・・・・・ダメかな?”」

目の前のキラが、記憶の中の“キラ”が、同じ言葉をささやいた。



「僕じゃ、ダメかな?」
キラはの手を優しく包みこみ、もう一度ささやいた。
涙がかわいてしまうほど驚いた顔で、はキラを見ていた。

がイザークを忘れられないのなら、それでいい。僕は、それでもいいから。」
キラは優しくを抱きしめた。
は震える腕を、それでもキラの背に回した。

ぬくもりが欲しかった。
イザークはもう、いない。
イザークはもう、のとなりに戻ってはこないから。

―――誰でもよかったわけじゃない。
それがキラだったから、は選んだのだ。
イザークを忘れろとは言わないキラだったから、選んだのだ。

「好きだよ、。」

キラにくちづけられて目を閉じたに、イザークの顔が過ぎる。
はイザークに「さよなら」と告げた。
それは言葉にはならずに、涙となって流れ落ちた。


キラとの新しい関係を知って、アスランは激怒した。
「キラは自分のことしか考えていないのか?! そんなことでが救えるのか?!」
めずらしく声を荒げるアスランをも、キラは相手にしなかった。

悪いのはイザークだ。
自分はの隙につけこんだわけじゃない。
キラ自身ずっと閉じこめてきた想いをに伝え、がそれに答えてくれたのだ。

アスランが自分と同じように、に想いを寄せていることを、キラは知っていた。
負けたくなかった。
を守るのは自分なのだと、キラは自分に言い聞かせていた。

「キラ?!」
アスランの言葉も、キラには届かなかった。


時を同じくして、連邦のソロモン攻略作戦が開始された。
あまりに手際のよい連邦の作戦には、内通者の存在を疑わせた。
圧倒的に不利な戦況の中で、それぞれが出撃を迎えていた。

「俺はが、イザークを幸せに笑っている姿が好きだった。」
出撃の前にアスランに引き止められたは、唐突に告げられた。

が笑っていたから、俺はをあきらめたんだ。それなのに・・・!」

を捨てたイザークを許せなかった。
イザークとの別離を、受け入れたを許せなかった。
そのあとのキラの行動も、許せなかった。

「アスラン。」
「今のなんて、俺は許さない!」

アスランの言葉に、はほほ笑みを浮かべた。
彼が自分をどれほど思いやってくれているのかを、痛いほどに感じた。

「ごめんね。・・・・ありがとう、アスラン。」




がまた倒れたよ。・・・今頃、夢に見てるんじゃないかな?」
イザークの部屋に現れたキラは、人懐っこい笑顔のままだった。

イザークの手には、終戦宣言を記した通達文と、ボルテールへの帰還命令が握られていた。
戦争がようやく終わろうというのに、前世の戦いが終わらない。
宿命のように背負わされた運命は、彼らに暗い影を落としたままだ。

キラはほほ笑みをひとつも崩さずに、イザークへ告げた。

「覚えてるよね? “”を殺したのが、“僕”と“イザーク”だってこと。」





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【あとがき】
 アスランがキラに弱いのは、原作どおり、ということで(笑)
 なんか逆らえないオーラが出てるんですよ、キラ様は。