なぜこのタイミングで・・・・。
なぜ、今・・・・ッ
切られた通信の前で、イザークは立ち尽くしていた。
イザークの震える拳は、ギリギリと音をたてる。
唇を噛みしめ、言葉なく怒りをあらわにするイザークに、ブリッジ中が静まり返った。
隊長が無言で怒りを表現したことなんて、一度だってない。
オペレーターは、隊長に呼び出しをかけたことを、心底後悔した。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:12 −くり返す時間−
「何か食べよ? 僕、お腹すいたな。」
誰にともなくキラは言い、の手をとって身体を起こす。
はキラの態度に釈然としない思いを感じながらも、促されるままに立ち上がった。
「アスラン、は?」
が不安そうにアスランを見る。
アスランが口を開きかけたとき、横からキラの声がそれを止めた。
「ここで待っててくれるよね? アスラン。君とは、ちゃんと話す必要がありそうだから。」
「・・・・・あぁ。そうだな、キラ。」
キラに手を引かれて食堂へむかいながら、が尋ねた。
「ねぇ、キラ。嬉しくないの?」
「え?」
意表をつかれたその言葉に、キラは思わず立ち止まる。
「だって私たち、生まれ変わってまたこうして逢えたんでしょ?・・・嬉しいこと、じゃないの?」
は戸惑いがちにキラに問う。
そのかわいらしい疑問に、キラは苦々しくほほ笑んだ。
「そうだね。・・・嬉しいよ。」
イザークと、アスランさえいなければ。
最後の言葉を、には言えずに飲みこんだ。
まだほんの断片しか思い出していないは、現世のの自我が強い。
けれどキラはあの“キラ”に、自分の半身をもっていかれているように感じていた。
そしてその“キラ”の憎悪は、今のキラをすべて飲みこもうとしている。
アスランにさえあんな態度をとってしまうのは、キラが“キラ”だからだ。
相変わらずキラに手を引かれながら、はキラの顔をうかがう。
なんだかキラがキラではないように思えた。
はまだ、自分が“”だった記憶を、思い出したばかり。
どうして、「また逢えた。よかったね。」ではいけないんだろう。
前世からの約束だと言ったに、激怒したキラ。
キラやアスランは一体どれくらい前から、どんなことを覚えているんだろうか。
「うれしい」だけでは終われない、何かがあるのだろうか・・・・。
の戸惑いが消えぬまま、踏みこんだ食堂。
そこで二人の耳に、同時に飛びこんできたゴシップ。
「でも、ジュール隊長ってさんとつき合ってるのよね?」
よくとおる声のオペレーターとそのグループは、自分たちの背後に当の本人が座ったことに気づかない。
キラは彼女たちに気づかれないように、自分の身体でを隠した。
彼女たちによって、ブリッジの様子が再現されていく。
「エザリア様も私的な通信ならそう言ってほしいわよね。」
「そうよ。それなら隊長室におつなぎしたのに。」
「オンしてた自分の、運の悪さを呪うわー。」
「・・・やっぱり、婚約したら別れるのかな?」
「そりゃそーよ。」
「さんが愛人になるってことはー?」
「・・・・・誰が、誰の愛人になるの?」
「だからぁ、さんがジュール隊長の・・・・・・・。?!」
にぎやかだった声がピタッととまり、彼女たちの顔が凍りついた。
あきらかに場違いなキラの笑顔には、涙がにじみそうになる。
「僕も詳しく聞きたいな、その話。」
彼女たちは再度、自分の運の悪さを呪った。
イザーク・ジュールの婚約がまとめられそうだと、どうして付き合っている恋人に告げる役目になってしまったのか、と。
ボルテールの艦内を、アスランはそれこそズンズンという音をたてて歩いていた。
目指す先は、イザークのいる隊長室。
あのキラにを任せるのは少し不安もあったが、キラひとりでイザークのところへ行かせるよりはマシだろう。
「入るぞイザーク。」
返事も待たずに部屋の中へ踏みこめば、ソファにもたれかかり上を見上げるばかりのイザークがいた。
「その顔は、もう聞いた顔だな。アスラン。」
目線だけアスランにむけて、イザークが言った。
「母上も考えたものだ。穏健派のトップ、シーゲル・クラインの娘と、俺の婚約話など。」
「またくり返すつもりか? お前が結婚してから“”がどういう―――・・・・。」
「ばかにするなっ!」
つかみかかってきたアスランを逆につかみ返し、イザークは声をあらげた。
「お前なんぞに・・・言われなくとも・・・ッ」
苦しそうにうめいて、イザークは言葉を吐き出す。
アスランはつかみあげられた首元から、イザークの記憶を受け取った。
「――――思い出したか。・・・・お前も。」
ギリギリとつかみあげてくるイザークの目元には、涙がにじんでいた。
前世のことだから、と、割り切れずにいる。
彼らが前世に残してきてしまったしこりは、あまりにも大きい。
一歩も引かない二人のニラみ合いは、次にドアが開くときまで続いた。
部屋のドアが開いても、は足を踏み入れることができなかった。
アスランとイザークのつかみ合いなど目にも入っていない様子で、震える自分の身体を抱きしめていた。
の目は、ただ、イザークを見ていた。
「本当・・なの、ね?・・・イザーク?」
イザークはの目を、どうしても見ていられなかった。
頭の中に、キラのあざけるように笑う声が聞こえた気がした―――・・・・。
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【あとがき】
黒キラ真骨頂。