今のが幸せなら、それでいいと思った。
昔のことをキレイに忘れて、それでもなおイザークを好きだというのなら、自分の想いは打ち明けない。
でもね、。
それならどうして僕は、ずっと昔からこんな記憶があるんだろう。
前世でも“・”を愛した僕の、“キラ・ヤマト”の記憶が―――・・・。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:11 −本当の再会−
「イザーク・ジュールが結婚してから、は笑わなくなったね。」
ザクのコックピットの中で、調整をしていたの所にやってきたのはキラ・ヤマト。
戦闘時には“赤い彗星”を支援する、ジオン軍のエース・パイロットだ。
にとってはモビルスーツ戦の師匠でもあり、軍の中では心を許せる友人のひとり。
「なに言ってんの、キラ。笑ってる笑ってる!」
無理矢理作り笑いをしてニイッと笑って見せたに、キラは心の中でため息をついた。
やっぱり・・・・・笑えてないじゃないか。
自分にまで体裁を取り繕うなんて、やめてほしい。
イザーク・ジュールはザビ家の側近のひとり、エザリア・ジュールの息子だ。
一介の兵士でしかない自分たちとは、家柄がまるで違う。
そのイザークとが、どういういきさつかは知らないがひかれ合った。
そして、それなりの関係であったことを、キラは知っていた。
ところが、それと時期を同じくして、イザークにあがった結婚話。
もちろん相手もザビ家に由来する家柄で、それはありきたりな政略結婚だった。
連邦軍との戦いの中で、身内で地位を固めておこうという為政者の、ありきたりな話だ。
その行為の犠牲になる者の想いなど、奴らは知るよしもなく。
キラは今度はにわかるようにため息をついた。
「キラ。士気が下がるからやめてくれ。」
に代わってキラに注意をしたのは、アスラン・ザラだった。
キラと同じく“赤い彗星”を支援するエース・パイロットで、キラの幼なじみ。
「アスランは機体の調整、もう終わったの?」
が聞けば、アスランはにこりともせずにの手元を見た。
「そういうはまだなんだろう? 手伝うよ。」
そのままに合わせて、ザクの調整を始めたアスラン。
「ありがとう。」
満面の笑みでがアスランに言えば、やっとその顔に笑みを浮かべる。
「手伝わないで死なれたら、うらんで出てきそうだからな。」
「あーっ! ひどいよ、アスラン。」
本気で脹れたに、キラとアスランがあははと笑う。
戦場には似つかわしくないその雰囲気に、周りのクルーたちからは様々な目がむけられていた。
心の底からうらやましいと思う者。
力のあるヤツはお気楽だ、と、キラとアスランを妬む者。
そんなクルーたちの誰とも思いを同じくしない者が、ひとり。
三人の様子を、ザクの足元からイザークが見上げていた。
の笑顔を見て、胸が張り裂けそうだった。
初めから、結ばれることはないと知っていた。
と出逢ったときすでに、イザークの周りには婚約の話があった。
ジュール家の嫡男であったイザークは、家を守る義務も責任もあった。
それでも想いは止められず、を愛した。
未来はないと知りながら、それでも止められなかった二人。
だが今、イザークの左手の薬指には、足かせのように指輪が光る。
イザークがよりも、家を選んだ証が、そこにあった。
イザークはキュッと唇を噛みしめると、自分のザクへときびすを返した。
と一緒に倒れたキラが、のろのろとその身体を起こした。
イザークは驚愕した表情でキラを見て、そしてアスランを見た。
触れている手の、が目覚める気配はない。
「―――知っている。“キラ”と“アスラン”だと・・・・いうのか・・・・?」
その顔も、名前までも同じだというのに、それでもイザークは確かめずにはいられなかった。
そんなイザークをあざけるように、キラが笑った。
「前世からの約束だって? を捨てたイザークが、なにを無神経なことを。」
―――を、捨てた。
その記憶からわかっていたことではあったが、イザークはキラに指摘され言葉に詰まる。
結婚を許した“”。
結婚を拒否しなかった“イザーク”。
その二人の間にどんな想いが交わされていても、それは“イザーク”の裏切りでしかないと、今は思う。
「今の君たちが今の姿のままで結ばれるなら、僕は祝福してあげる。」
冷めた目つきに暗く、影がおちるほほ笑み。
キラのその姿は、長い年月たった一人で前世に苦しめられてきた姿だった。
「でも、すべてを思い出して、はまたイザークを愛せるのかな?」
くっくっと笑うキラが、まるで別人のようだとイザークは思った。
キラはいつもどんな相手に対しても柔軟な物腰を崩さず、笑顔で接していた。
だが今思うとそれは、誰にも心を許していなかったということだったのか・・・・。
「うっ・・・・ん・・・っ」
アスランのベッドに寝かされていたが、声をあげた。
前世の記憶から覚醒しようとしている。
そのとき艦内にイザークを呼び出すオペレーターの声がした。
<ジュール隊長、プラントより通信が入っています。至急ブリッジへ。>
イザークはひとつ舌打ちをすると、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出た。
オペレーターの声に完全に目をあけたと、最後に視線が交じり合う。
イザークはせめて心配だけはかけたくないと、笑顔をつくる。
イザークの姿が消えると、の目はキラとアスランの姿をとらえた。
「キラ。アスラン。・・・・私・・・・。」
「久しぶり、“”。」
さっきまでのイザークに対する態度とはまったく違い、キラはの元へ駆け寄った。
「こんなことになって、ごめんね?」
「気分は悪くないか?」
ともに不安げにを見る二人が、懐かしい二人と重なり合う。
“”が知っている、“アスラン”と“キラ”。
の目から、涙がこぼれる。
こうして今、四人がそろっているのは運命ということなのだろうか。
「久し・・ぶり。“キラ”、“アスラン”。」
やがて記憶は、懐かしさではない別の感情を、四人に与えることになる。
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【あとがき】
ファースト時代のキラくんは、かなり黒だったと思われます。
そして種時代のちゃんが、ザクを赤にしなかった理由がここに。
赤いザクなんて、あの人しか乗れませんよ。
しかもその記憶の奥底にそれを知っているちゃんが、選べるわけありません。
他のMSの3倍で動く“赤い彗星”を支援だなんて、さすがSEEDを持つ者です。(笑)