幸せそうな二人の姿は、終戦へむかうプラントの象徴にも見えた。
ほほ笑ましく二人を見守る者の中には、キラとアスランの姿もあった。










〔 必然の出逢い 〕
SCENE:10 −記憶の闇−










少し頬を赤く染めながら、は廊下をイザークの部屋にむかって歩いていた。
今にも走り出してしまいそうな足を、恥じるように抑えて歩く。
昨日も小走りにイザークの元へむかう姿を、アスランに笑われたばかりだ。

そのアスランとキラの部屋の前を通りかかると、シュンッと扉が開いた。
驚いて足を止めたと、部屋の中の二人の顔が合う。
キラとアスランも、と同じように驚いた顔をしていた。
扉にロックがかかっていなかったのだ。

「やだ、二人とも。ロック忘れてる。」
のほうが先にくすくすと笑い出した。
驚いていた二人も、同じように笑い出す。

「イザークのところへ行くのか?」
アスランが笑顔で問うと、は二人の部屋に足を踏み入れながら言った。
「せっかくドアが開いたんだから、二人とお話しようかな?」

「うん。いらっしゃい。」
キラが包まっていた毛布から身を起こし、を出迎えた。
ついさっきまで気持ちよさそうに眠っていた姿が想像できる。

はキラのぬくもりがまだ残るベッドの端に腰かけた。
「ねぇ。はイザークのどこが好きなの?」
悪気もなく、ニコニコ顔で聞いてくるキラ。
天使とも悪魔ともとれるそのほほ笑みを前に、はうっと言葉に詰まる。

「え・・えぇ?! アスラ〜〜ン・・・。」
助けを求めてみても、アスランさえクスクスと笑うばかり。

そしてその口の端を不敵につりあげながら言う。
「俺もそれ、聞いておきたいな。」


は二人の態度に、ただ自分を茶化しているだけとしか感じない。
けれど二人にしてみれば、自分がをあきらめるため、知っておきたかったこと。
そして、幸せそうなの笑顔を、やはり見たかったのだ。

「二人ともいじわる。」
が開き直って膨れたところで、許してくれる二人ではない。

けれどまさか二人は、の口からそんな言葉が出るとは、思ってもいなかったのだ。
は、恥ずかしそうにうつむいて、言った。


「――――信じてもらえないかもしれないんだけど、前世から、約束していたの。」


動きを止めるキラと、手から物をすべり落とすアスラン。
あきらかに動揺した二人に、のほうが驚いた。
「どうしたの? 二人とも。」
不思議そうに聞き返すの肩を、キラがつかまえた。

「どういうこと?! なんなの、それっ?!」
「キラ!」
激しく感情をむきだしにしたキラを、アスランが止める。


アスランは、ついに確信した。
やはりキラも、“知っている”と。


「前世? そんなこと、の口から聞きたくないよ! それなら、僕のほうこそが必要じゃないかっ!」

は混乱した。
こんなに激しく声を荒げるキラなんて、見たことがない。
キラの言っていることの意味が、さっぱりわからない。

「やめろキラ! はまだ知らない!」
ただひとり、すべてを知っているアスランがキラを止める。

の様子からすべてを思い出したわけではないと悟ったアスランは、キラを止めるのに必死だった。
すべてを思い出しているのなら、が自分たちにこんな穏やかな顔で話をするはずがない。

だからアスランは、自分たちの口からそれを告げることだけはしたくなかった。



アスランがその行為を遅かったと知るのは、とキラが同時に倒れこんだ瞬間。
キラの想いに触発されて、も思い出しているに違いなかった。

「くそっ・・・・・。?!」
せめて二人をベッドへ運ぼうとアスランがに触れたとき、頭の中にそれは流れこんできた。
「これは・・・・の・・・・?」

とっさにアスランは、隊長室へ回線をつないでいた。
「イザーク! すぐに来いっ! が・・・・っ」

顔が映るか映らないかのところで、相手から切られた通信。
あと数分もすれば、イザークはこの部屋に来るだろう。
アスランは立ち上がり、扉の先をニラみつけた。



肩で激しく息をしながら、イザークが部屋に駆けこんできた。
アスランを見てすぐに、ベッドに伏せているとキラに目がいき、息をのむ。

「おいアスラン、これはどういう―――?!」
「話はあとだ。イザークもまだ、すべてを知らないんだろう?」

イザークの言葉をさえぎり、冷めた目つきでアスランは言う。
の手に触れてみろ。お前もそれで見られるはずだ。」


アスランのその言葉までもが、どこまでも冷たかった。
アスランの言葉の意味もわからず、それでも半信半疑での手に触れたイザーク。
とたんに激しいめまいと、それが流れこんできて、イザークは立っていられなくなる。

「くっそぉ・・・っ。どういう・・・・つもり、だっ?・・・アスラン!」
「俺はお前こそ、思い出すべきだと思う。―――それだけだ。」


上から見下ろされてものを言われ、イザークは怒りに震えた。
けれど、の手を離すわけにはいかなかった。

なぜなら、その記憶の中にも、ヤツがいたから。


今、自分を見下ろしているアスランと、同じ顔をした“アスラン”が――――。





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【あとがき】
 アスラーン!黒アスばんざい!
 脱ヘタレ!