人類の歴史の中から、戦争が無くなったことはない。
たとえその歴史が後世に残らないものであったとしても、人は与えられた命を生きる。
とイザークもまた、そうして与えられた命のひとつだった。










〔 必然の出逢い 〕
SCENE:09 −前世の恋人−










宇宙世紀79年。
ジオン公国は地球連邦政府に対し独立を宣言。
宣戦布告と同時に、連邦コロニーへ奇襲攻撃を加え、ジオン独立戦争は始まった。
自国の独立を果たすため、イザークもも、持てる力を戦いに捧げた。

「私もザクを与えられたの。・・・これで戦場にも一緒に行ける。」
の言葉に、信じられないと目を開くイザーク。
「なぜ女のお前が戦場になど出る?! それもモビルスーツだと・・・っ?!」

激怒するイザークの手を、がとる。
イザークの左手の薬指には、指輪が光っていた。
はそれを切なげにたどると、イザークの顔を見た。

「イザークにはもう、愛さなきゃいけない人がいる。だから私は、戦場であなたと一緒にいるわ。」
そしては、「でも・・・・」と言葉を続けた。

「ねぇ、イザーク? 生まれ変わったときには、“戦争”も“家”もなく、私を愛して―――?」

イザークはにくちづけて言う。
「あぁ。誓おう。」

そしてイザークはに、背を向けて歩き出す。
は、追いすがりたい自分の手を、心を、必死につなぎ止めた・・・・・・・。




「泣くな、。」
イザークに声をかけられ、我に返ったは、それでも流れ落ち溢れ出る涙を止められなかった。
「でもっ・・・・でもぉっ・・・・。う〜〜・・・・。」

―――あの夢は、未来なんかじゃなかった。

愛しくて愛しくて。・・・・・追いかけたイザークの背中。
名前を呼んで引き止めることもできず、伸ばした手を引き寄せて泣いた。
痛いほどに感じた、愛しさと切なさのはざまに立つ想い。

何度も何度もくり返し見た夢は、が前世から抱いてきた記憶だった。
刹那の時間の中の恋人。
むくわれることのなかった、とイザークの想い。

「泣くな。はまたこうして、俺のとなりにいる。」
「イザー・・・・ク・・・・。」
「想いの強さにひかれ合い、生まれ変わってもまた、俺はと出逢った。」

イザークに抱き寄せられ、イザークの胸の上で、その心音に身をゆだねる
それでも涙が止まらない。

自分はなんて楽観的にとらえていたんだろう。
自分の中で“”は、あんなにも悲鳴を上げていたのに。
それに気づきもしなかった。
触れたくて触れたくてたまらない人が、すぐそばにいたのに―――!

イザークの手が、優しくの髪を撫でた。
「今の俺はをひとりにさせるつもりはない。前世のと約束していただろうが。」

――― 『生まれ変わったときには、“戦争”も“家”もなく、私を愛して』 ―――

前世の自分の声が、の頭に再び響き、“”の想いに胸が締めつけられる。
・・・・・どうして?
どうして“”は“イザーク”の手を離せたんだろう。
あのとき“”はどうして、“イザーク”の名を呼ばなかったんだろう。
あんなに愛し合っていた二人は、なぜ結ばれることなく別れたのか。
“イザーク”は、どうしてふりむかなかったのか・・・・。

考えれば考えるほどに、前世の痛みにとらわれる。
そしてあの“イザーク”の手に光っていた指輪・・・・・。

けれどもう、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
イザークの言うとおり、とイザークはこうしてまた、出逢えたのだから。

「イザーク。また、逢えて・・・・よかっ・・・・・。」
涙は声までも震わせて、は上手く言葉にできない。
イザークはその両手で、しっかりとを抱きしめた。
「あぁ。もう離さないからな。」
そしてイザークは、やんわりとにくちづけた。



気が遠くなるほどの長い長い時間を経て、再びめぐり合った二人。
今の時代でも、再び想いをひとつにした二人。
ふたりはまだ、知らない。
この前世の記憶が、悲しい物語の序章にすぎないことを。
その記憶が、今を生きる自分たちをも苦しめるということを。

今はただ、時を越えた再会を喜びあうだけの記憶。
それは、刹那の夢に似ていた。




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【あとがき】
 ガンダム黒歴史です。
 すべてのガンダムシリーズはつながっていて、忘れられた歴史である、と。
 その定義は種製作以前にもたらされたものだけど・・・。
 MSが同型なんだから、きっと種も黒歴史と考えていいのかな?と。