突然部屋にやってきて、キラに一言、イザークが告げた。
「すまん。」
それだけで理解したキラは、イザークにほほ笑んだ。
「を泣かせたら、許さないからね。」
その言葉にはあえて返事を返さずに、イザークは部屋を出て行った。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:08 −はじまりの夢−
「そうしてまた、イザークを選ぶんだ。は・・・・。」
部屋にはキラとアスランの二人。
何気ないようにつぶやいたキラの言葉に、アスランはとてつもない不安を覚えた。
“また”と、言わなかっただろうか、キラは。
が、“また”イザークを選ぶ、と。
「キラ、お前まさか―――?」
アスランが問いかけて、それに振り向くキラ。
「なに?」
その切なげなほほ笑みに、アスランはそれ以上何も言えなかった。
「まったく! 病み上がりだというのにまたここにいるのか?! こら、!」
イザークは愛機のコックピットで楽しそうにキーボードをたたく恋人を、恨めしく見ていた。
戦闘も起こらない今の状況では、訓練規定が終了すればあとは自由時間のようなものだ。
隊長であるイザークですら、少し前の激務がウソのように仕事がない。
何よりやっと想いが通じ合ったのだ。
戦艦の中にいて何もすることがないのなら、自分の部屋でゆっくり話でも・・・・と思わなくもない。
ところがこの恋人は、先ほどからザクに夢中だ。
いや、のザクへの愛着は、今に始まったことではないのだが。
「だってプラントへ戻ってもイザークは傍にいてくれるって言うし。・・・そしたらお別れするのは、ザクだけだし。」
イザークの方には目もくれず、モニターを食い入るように見て話す。
ザクとイザークのどちらを選ぶんだ? とかくだらないことを聞けば、ザクと即答されそうだ。
「ふん! 勝手にしろ。」
言い放ってもなお、イザークは開いたハッチの上から腰を上げようとはしなかった。
そんなイザークに初めて目をむけて、はくすりと笑って言った。
「あのね。夢を見たの。すごく大切な人に傍にいてほしいのに、その人はどんどん遠くに行っちゃって。」
何の脈絡もなく話し出したに、イザークは眉をひそめた。
ザクの次は夢か。
いつになったら自分との話をしてくれるのだろうか。
そんなイザークの胸の内も知らずに、は続けた。
「もう何年も前から何度も見るの。不思議でしょ? 目が覚めても夢の中で感じた痛みは大きすぎて、決まって私は泣いてるの。」
あぁ、それでザクにもたれて泣いていたのか。
イザークは、があの日もその夢を見て起きてきていたのだと理解した。
「それは・・・・・の家族か?」
言いにくそうに、イザークが口にした。
ユニウス・セブンで、家族を失っている。
夢にまで見る“大切な人”に、家族が当てはまるのは自然だと思った。
けれどはきょとんとした顔をイザークにむけると、そのままふるふると首を振った。
「イザークだった。」
の言葉に、今度はイザークが驚いた。
「私、あれは未来だと思ったの。イザークと別れたらあんなに辛いんだって、そうなる前に教えてもらった気がしてる。」
あの夢を見て泣いていたら、イザークがきてくれた。
イザークが、そうならない未来を選んでくれた。
だからは、あの夢に感謝していた。
あれが、選ばれなかった未来なのだと、訳もなく信じていた。
「。」
夢を思い出しただけで、の心が締めつけられた。
涙が自然と溢れ出した。
泣くなんて、おかしい。
あれは・・・・もうない未来なのに。
イザークはの涙をぬぐおうと、その頬に手を伸ばした。
「夢、だったんだろう?」
そうしてその手がの涙に触れたとき、の涙の一滴が、ザクのコックピットへ落ちた。
同時に、チリッとこげるような痛みが、二人を襲った。
「なに?・・・・きゃあ!」
「・・・・くっ・・・・。」
そしてそこから互いの身体に、流れこんでくるものがあった。
まるでそれは、夢を見ることに似ていた――――・・・・。
「お前をこのまま抱いていたい。」
一糸まとわぬその姿を絡めあいながら、男は女に囁いた。
叶わぬ願いと知りながら、それでも言わずにはいられなかった。
その言葉に刹那の夢を見て、張り裂けそうになる胸を押さえながら、女が笑う。
「無理よ、イザーク。」
とたんに不機嫌そうに目をつりあげ、だがそれとは逆に身体は女を求めながら、男が言った。
「わかっている! 言っただけだ。」
互いにその胸のうちを知りながら、その想いを叶わぬと知る者。
それはであり、イザークの記憶だった。
今はもう、別の者として生を受けた二人の、悲しいほどに刻まれた、前世の記憶だった。
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