また、夢を見た。
夢の中でも、目覚めても、
切なくて身が切り裂かれそうになる、あの夢を。










〔 必然の出逢い 〕
SCENE:07 −幸せな時間−










「イザーク・・・・? だった・・・?」
初めて知った夢の相手は、のよく知る人だった。
ただひとつ、夢の中のイザークは今よりも少し年上だった。

じゃあ、あれは、未来?

停戦と聞いたときの心の不安が、の中に一気に広がる。
プラントへ戻っても、ひとりぽっちの自分。
イザークもアスランも、評議員を親に持ち、庶民とはかけ離れた家柄だ。
キラも養子にこそ出されているが、あの遺伝子研究の第一人者ユーレン・ヒビキの息子だ。
隊を離れれば、などが会える相手ではない。

では、あれは予知夢なのだろうか。
いよいよイザークと別れなければならないとき、あんなにも苦しいのだろうか。

「いやだよ、イザーク・・・・・・。」
夢から覚めても、は声をあげて泣いた。


イザークが好きだった。
アカデミーで初めて会ったとき、なんて綺麗な人だろうと思った。
きっとクールで冷たい人なんだろうと思っていたら、かんしゃく持ちの負けずギライだった。
入隊して戦場に出るようになると、キツイ言葉とは裏腹に、情の厚い人だと知った。

イザークのそんな姿を、の目が追っていた。
見た目とバックグランドの大きさからどこにいても目立つ彼は、それだけを目的で近づく者は寄せつけない。
イザークを好きだと思ってはいても、にとってそれは簡単に口にできる想いではなくて・・・。
築いてきた仲間という家族のような関係を、壊してしまいたくなかった。

だから、このままでいいと言い聞かせてきた。
アスランに何とからかわれようが、想いを打ち明ける気なんてなかった。
あの夢のようにいつかイザークがいなくなってしまっても、仲間だった自分が彼の中から消えることはないと信じたい。

は軍服をはおり、医務室を出た。
心を落ちつける場所を求めて。



やけに寝苦しさを感じて起きてしまったイザークは、朝のミーティングまで大分ある時間を持て余していた。
停戦となった今は、ミーティングするようなこともロクにないのだが、規則は規則だ。
今日もピシリと白の軍服を身にまとい、イザークは部屋を出た。

むかった先は格納庫。
戦いが起こらないことはわかっていたが、きっちりメンテナンスを整えておくことは大切だ。

誰もいないことを前提に足を踏み入れた格納庫に、を見つけたイザークは驚いた。
は、自分の機体の足元に身体を寄せて、ちょこんと座りこんでいた。

! こんな所でこんな時間に何をしている?!」
歩調を速めてに近づいたイザークは、の顔を見るなりギクリとその足を止めた。
「・・・・・・イザーク・・・・・・・。」
顔をあげ、イザークを見上げるの頬には、涙が伝っていた。

イザークと目が合うと、はゆっくりその涙を拭いて立ち上がった。
「ごめんね? 何でもないの。」
あきらかに理由があるのに、そう告げられたことがイザークは悔しくて。
気づいたらの手をつかんでいた。

「ちょっ?! イザーク?!」
「何でもないだと? こんな時間に泣いてる奴が言うセリフかっ!」
優しい言葉のひとつでも言えればいいのに、イザークにはそれができない。
イザーク自身、傷ついていたのだ。
に、痛みを分けてもらえなかったことを。

「戦争が終れば、俺は必要ないか? そんな程度なものなのか?!」
両手をつかみそのまま言葉を浴びせれば、は驚き後ずさる。
それでもの背にはさっきまでもたれかかっていたザクがあり、それ以上の逃げ場はない。

イザークの剣幕にひるんだだったが、やがてそれをイザークの優しさだと受けとめた。
を本気で心配してくれたイザークの、精一杯の優しさだと。
そう思えたらイザークの剣幕にも、おかしさがこみ上げてきた。
イザークはいつの間にか笑い出したを見て、怪訝そうに眉を寄せた。

「心配するなら、ちゃんと心配してよ。」
笑い声と共に言われた言葉に、イザークは真っ赤になった。

でなければ気づかないだろう。
怒鳴ることで、イザークが心配しているとは。

「うるさいっ! だいたいが悪い!」
今度は真っ赤な顔をしながら声を張りあげるイザークに、はなおも笑いがこみ上げてきた。
「イザーク、ちょっとタイム! あははははは・・・・っ」

ひとしきり声をあげて笑ったは、今度は笑いによって出た涙をぬぐいながらイザークに言った。
「ありがとう、イザーク。」


少し首をかしげながら顔をのぞきこまれて、イザークの中で何かが弾けた。
そのままの腰を引き寄せると、何も言わず、言わせず、を抱きしめた。

「好きだ。」

あまりの衝撃にへなへなとその場にしゃがみこむ
イザークはそのと目線を合わせるように座りこみ、手を取った。
「おどろかせて、すまん。」
心底申し訳なさそうに言うイザークに、衝撃でぽかんとしていたが、また吹き出して笑った。

怒鳴られることも覚悟していたイザークが、今度はあっけにとられた。
「謝らないでよ、イザーク。」
くすくすと笑いながら、が言う。

「私も好き。イザークが好き。」

から告げられた言葉に、イザークは胸の中の何かが揺れ動いた気がした。
その想いが何かも知らないままに、イザークはをまた抱きしめた。
同じようにイザークの背に回されたの手が、温かかった。


言うつもりなんてなかった言葉が、の口をついて出た。
思いもかけなかったイザークの告白で、の心が癒された。

けど、プラントへ戻れば、一緒にいることなどできないだろう。
イザークほどの家柄ともなれば、恋愛は自由ではないはずだから・・・・。

「私、イザークの傍にいられて、幸せだった。」
そんな言葉が出たのも、がそう思っていたからだ。
過去形にしたのは、イザークに重荷を背負わせたくなかったから。
ただこの想いを通わせ合えて、確かめ合えて、それだけでよかった。

イザークが、の言葉に顔をしかめた。
「―――は、これからも幸せでいる気はないのか?」
「え?」
「俺の傍で幸せなら、俺の傍にいろ。プラントへ戻ってからも。」

なぜ想いが通じたのに、これで終わりというような言い方をがするのか、イザークにはまったく理解できずにいた。
キラには悪いとは思ったが、自分がを支えようと、イザークは決めていた。

「イザーク・・・・・・。」
「だから泣くな。」

涙でにじんだの瞳の中で、イザークが優しく笑っていた。




   back / next


【あとがき】
 イザーク種割れ。(笑)