「どうしたキラ?!」
うなされて、全身にぐっしょりと汗をかいたキラは、同室のアスランに身体を揺り動かされていた。
「・・・・アス・・・ラン?」
夢と現実の狭間にいても、キラはその名を呼んだ。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:06 −想う人・夢の人−
「どこか痛いのか?」
心配そうに問う親友に、キラはほほ笑んでみせた。
「うん。大丈夫。」
とても大丈夫とはいえない様子をしながら、キラはベッドを降りた。
「停戦、したんだよね?・・もう誰も、死なないよね?」
「あぁ。終った。」
答えるアスランの前を、キラは通り過ぎる。
僕は・・・・・。僕は・・・・・。
ゴチャゴチャになる。
今の記憶と、過去の記憶。
あれは“キラ”であって、キラではないのに。
「ごめんね、アスラン。」
それだけを言い残して、キラは部屋を出て行った。
キラが出て行ってがらんとした部屋にはひとり、アスランが残された。
四歳の頃から、ずっと一緒に成長してきた幼なじみ。
もともと芯の強さよりもモロさの方がみえるキラは、アカデミーに入ってからますますモロくなった。
お前に戦争なんかできやしないと、アスランは何度諭したかわからない。
そのたびにキラはああやってほほ笑んで、アスランの危機感をさらにあおる。
キラが弱いというわけではない。
むしろモビルスーツでの戦闘能力は、キラに敵う者などいなかった。
戦場ではその絶対的な力をふるい、幾多の敵を討ってきたキラ。
キラのことは知らなくても、フリーダムは連合にも知れ渡っている、ザフトの象徴だ。
「キラ。お前・・・・・。」
フリーダムの示す名は“自由”。
“自由”の翼を“自由”に操るキラはいつ、“自由”になれるのだろうか・・・・。
ただ黒く、暗いだけの宇宙が広がる窓の外を、キラは眺めていた。
キラの瞳に映るのは、守りたいと願うの笑顔。
けれどキラは気づいていた。
その笑顔の“特別”がむけられているのは、自分ではないと。
あきらめたくなかった。
何より心が、あきらめさせてはくれなかった。
だから自分の言葉でイザークをけしかけたのだ。
今のがイザークを選ぶのなら、きっと自分は身を引ける。
「僕、ちょっとばかみたいじゃない・・・?」
キラの目から涙がこぼれた。
キラが望むのはいつだって、“の幸せ”なのだ。
「でもね。本当だからね。僕が君を守りたいんだ。―――好きだから。」
キラの想いを受けとめてくれる者はいなかった。
闇に飲まれるように、ポツリとつぶやいた言葉が消えていく。
明け方に、誰かに呼ばれた気がして、イザークは身体を起こした。
当然一人部屋の隊長室で、彼を呼ぶ者などいるはずもなく。
夢でも見たのかと、また身体をベッドへあずけた。
“停戦”と聞いてから、イザークの心配事はただひとつ。
ひとりきりの。
プラントへ戻れば、別れ別れになる。
戦争のない世界。
イザークにとってそれは、のいない世界でもあった。
動き出そうとしているのはキラ。
あれだけ一緒にいたというのに、キラの気持ちにまるで気づかなかった。
戦後のを案じているのが自分だけではないのを心強くも感じたが、そんなのん気な問題でもないことがやっかいだ。
「えぇい・・・・クソっ・・・」
こんなことは一番苦手だ。
規則や規律なら、それと割り切れる。
だが、人の想いはそんなに簡単なものでなく、予想できるものでもない。
自分自身の中に、すでに答えを持っていることを、イザークはまだ知らなかった。
また、夢を見た。
行ってしまう。・・・・行ってしまう。
お願い、行かないで。
私の傍にいて。
去っていく背中に、想いの丈をぶつける。
「 !!」
言葉にならないのは、その名を呼んではいけないから。
この別れが、あなたの優しさだと知っているから。
でも・・・・。
「――――イザーク!!」
その姿がすっかり消えてしまうと、はその名を叫んだ。
見えなくなった愛しい人は、今も脳裏に生きている。
イザーク・ジュール。
愛しいあなたは今も、私を愛してる・・・・・?
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