「いきなり意識を失くすとは何事だ、! 体調が悪いなら早く言え!」
医務室に飛びこんでくるなり、イザークが大声でを怒鳴りつけた。
「病人を怒鳴りつけるなよ、イザーク。」
アスランがいつもの調子で、イザークを諫める。
諫められた相手がアスランだからこそ、イザークの怒りを買い、ますます大声で怒鳴りつけるイザーク。
そんないつもの二人を、苦笑いしながらとキラが見ていた。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:05 −キラの告白−
事の起こりは朝のミーティング。
今日の訓練規定を決定していた最中で、が急に倒れた。
しかも誰が何を問いかけても反応がなく、完全に意識を失った状態だった。
とっさにキラがを抱え上げ、医務室に運んだ。
幸いの意識はすぐに戻り、イザークとアスランは律儀にミーティングを終了させて駆けつけた。
「ごめんね、みんな。心配かけました。」
「気にするな。事を荒げてるのはイザークだけなんだから。」
アスランの追い討ちをかけるかのような言葉に、ワナワナと震えているイザーク。
イザークの怒りが爆発する前に、にこやかな軍医の声がした。
「はまだ安静です。隊長も皆さんも出て行ってください?」
軍医の正当な主張に、三人はしぶしぶ医務室を出て行った。
「停戦になんてなるからだよ。が気を失ったのは、ゼッタイそれが理由じゃない?」
医務室を追い出された三人は、イザークの部屋にきていた。
意識を失ってが倒れたなんて、人の集まる場所で話したい内容ではない。
しかも軍医の話では、身体には何ら異常はないという。
それでなくても停戦発表により、落ち着かない様子をみせている艦内なのだ。
火のないところに煙は立たせたくない。
「おいキラ。じゃあお前はこのまま、戦争が続けばいいとか言う気か?!」
キラの言葉はイザークの気に障った。
停戦は軍人にとって。
何より人類にとって、歓迎すべき事柄なのだから。
「イザーク。」
アスランがイザークをたしなめる。
名前を呼ぶだけでそれをおこなえるのは、おそらくアスランひとりだろう。
「だってこのままプラントへ戻っても、はひとりになるだけじゃない・・・?」
「だからってお前なぁ!」
キラが言いたいことはわかる。
戦争が終らないことを望んでいるんじゃない。
ただプラントへ帰るという意味が、自分たちとでは違うのだ。
だってはそれを知ったとき、一度も笑わなかったのだから。
「だからってキラ、その発言は軽率だろう?」
アスランが言うと、キラは「そうだけど」と口ごもる。
「じゃあアスランは、何か他に心当たりあるの? 倒れた理由。」
キラに問われ、ふとアスランは昨日のの様子を思い出した。
ザクのコックピットの中に、ひとり閉じこもっていた。
プラントに帰っても、出迎えてくれる家族のいない。
それでも、何気ない会話に、笑顔を見せた。
彼女のバランスが、何か狂ってしまったのだとしたら・・・?
起こり得る最悪の事態に考えが行き着いて、思わずアスランの顔がこわばる。
考えをめぐらせたのは自分自身なのに、今はその自分がそれを否定しようと必死だった。
―――そんなはずはない。
そんなことが起こり得るのは、自分だけだ、と。
「アスラン?」
いつまでも返事をしないアスランに、キラが問いかけた。
「あ・・・・いや・・・。何も・・・・。」
あいまいに答えを返すと、キラのどこか探るような視線がとんでくる。
アスランは耐え切れずに視線を落とした。
「・・・ねぇ、誰かがのとなりにいたら、はひとりにならないよね?」
沈黙を破ったキラの言葉に、首をかしげるイザークとアスラン。
二人はまだ、キラが何を言わんとしているのか、わからなかった。
けれどキラは、その憂いを含んだ表情を変えることなく言った。
「僕、が好きなんだ。」
「あ?」
「キラ?」
その言葉に、驚きを隠せない二人。
そろいもそろって端整な顔立ちを歪ませた二人を見て、キラは確信した。
やっぱり。
イザークも、アスランも・・・・・。
が好きなんだね。
自分も含め、戦争中はその気持ちよりも闘争心を優先させていたことを、今は滑稽に思う。
いや、かろうじて戦争が、この想いを止めていてくれたのか。
だったら、そのことだけには感謝しないと。
アスランは、自分と同じように顔を歪ませているイザークを見た。
の気持ちを、ただ一人知っているアスラン。
イザークとはお互いに想い合っていたのだと、確認させられてしまった。
そんなアスランの気持ちも知らず、キラは続けた。
「僕、別に気にしてないから。・・誰がをすきでも、が誰を好きでも。」
瞳の中に力強い輝きをみせて、キラが言う。
「今度を守るのは、僕だ。」
あっけに取られた二人に、今度はいつも通り穏やかな表情を浮かべて、キラはほほ笑んだ。
「ねぇ、僕紅茶飲みたいな。二人も飲む?」
勝手知ったるイザークの部屋で、紅茶を入れだすキラ。
ある意味二人に対して宣戦布告ともとれる発言をしたのに、その後のキラはあくまでキラらしくて・・・・。
これにはアスランもイザークも、顔を見合わせてしまうほかなかった。
はまた、夢を見た。
行ってしまう、愛しい人。
「 !!」
呼べない名前。
ひきとめられない自分。
ベッドから身を起こしても、は震える自分を止められなかった。
涙があふれてくる。
「はぁっ・・・・はぁっ・・・・」
呼吸を整えるどころか、乱れる。
心が苦しい。
痛い。
それは、ユニウス・セブンで家族を亡くしたときに似ている。
「だれなの?・・・・・・なんなの・・・・・っ?」
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【あとがき】
ずいぶんと天然なキラくん。
次回、いよいよ書きたかった本編に突入します。