ボルテール艦内モニターの前には、どこもたくさんのクルーであふれていた。
たちパイロットは、ブリッジでモニターを見ていた。

映っているのは、プラント最高評議会議長シーゲル・クライン。










〔 必然の出逢い 〕
SCENE:04 −ザク−











重々しい口調で語られる彼から、ついに発せられたのは、やはり“停戦”。
イコール“終戦”の事実は、疑いようもない。

世論も政治も、双方が望んでいる。
何より連合でもプラントでも、ナチュラル対コーディネーターを支持していた者のほとんどが、テロで殺されてしまった。
プラントの議員たちも、数年の間にすっかり穏健派が主力となっている。

その中で唯一、イザークのお母さまエザリア議員と、アスランのお父さまパトリック議員がタカ派として存在している。
それはテロリストすら巻きこむカリスマ性にあるのだろう。
とはいえ、戦争を支持する力が、どちらからも消えようとしていたのだから、停戦は当然の結果だろう。

終戦宣言が出されるまで、ザフトは現状のまま待機となった。
ボルテールは宇宙に漂ったまま、その日を待つこととなる。


食堂に足を踏み入れたは、いたたまれない気持ちになり、その場をあとにした。
停戦と聞いてから、どうも体調がすぐれない。
熱っぽさにダルさも交じり合い、重い身体には食堂の和やかな空気が耐えられなかった。

誰からも聞こえてくる『これで家に帰れる』という声。
と同じ年だと言っていたオペレーターが、机に頬杖をついて言っていた。
「お父さんもお母さんも、元気かなぁ?」
弾むように語られるそんな言葉たちが、の心を締めつける。

「帰る場所。・・・・・かぁ。」
自室にひとりで閉じこもるのも、気持ちが変わるどころか泥沼化してしまいそうだ。
は自分の居場所を求めて、艦内をさまよう。

ふらふらと定まらない足どりが止まったと思ったら、は走り出していた。
今、自分が望む場所を見つけた。



思ったとおり、格納庫は人気もまばらで、がらんとした雰囲気を漂わせていた。
はホッとして自分の機体、ブレイズザクファントムに近づいた。

戦争に参加してから、新型が支給されるたびに乗り換えてきた機体。
けれどこのザクに出逢ったとき、は懐かしさにも似た気持ちを覚えた。
ジンに乗ってもゲイツに乗っても感じなかった、愛着と呼ぶべき感情なのか。

ザクのコックピットの中で、はようやく心を落ちつける。
「やっぱり落ちつくなぁ、私のザクは。」

パーソナルカラーで彩ることもできたの機体は、ベーシックカラーの緑のまま。
本当は軍服と同じ赤でも良かったのだが、なんだかそれは選べなかった。
そして赤以外でこのザクに似合う色は、やはり緑としか考えられなかった。

「どうせ駆け込みセーフのザフトレッドですから、これでいいんです。」
せっかくだから色をつけろと、何度も言われた。
色ひとつでどんな騒ぎだとあきれつつも、そんな些細なことで心配してもらえる自分が嬉しかった。


ハッチを開いたままでコックピットに身体を預けていたの前に、アスランがひょいっと顔をのぞかせた。
「ここにいたのか、。探したぞ?」
「だってザク好きなんだもん。」
それに、とても名残惜しかった。
愛機といっても、所詮は軍のもの。
プラントへ戻れば、にはもう触れることはできないかもしれない。

「アスランだって、ジャスティス降りるのは名残惜しいでしょ?」
が尋ねれば、アスランがふっと笑う。
「いや、別に。・・・・がザクに持つほどの愛着はない。」
「そうなの?」

スペシャル機なのに?と、は思う。
それだけでも不思議なのに、アスランはさらに不可解なことを言う。
「もしも俺がザクに乗っていれば、きっとと同じくらい愛着を持っていただろうけど。」

「えぇ?! アスラン、ザクの方がよかったって言うの?」
「いや、そういうわけじゃないが・・・・。まぁ・・・何と言うか・・・・。」
言いよどむアスランに、少し冷たい目線を送る
「それならアスランがキラに譲ったらよかったのにーーーー。」


ボルテールに当時支給されてきたスペシャル機は二機。
一機はアスランの乗っている、ジャスティス。
もう一機が、争いの火種になった、フリーダム。

当然イザーク用に配備されてきたものだったが、実際に今搭乗しているのはキラ。
そしてイザークが今搭乗するスラッシュザクファントムは、本来キラが搭乗すべきもので・・・・。

四機が同時に配備され、搭乗機を告げられたとき、キラはあからさまに嫌悪感をにじませた。
「僕、ザク嫌だ。」
子供が気に入ったおもちゃをもらえなかったかのようにスネたかと思うと、フリーダムを指して、
「あっちがいいな。イザーク、交換しよ?」
と、満面の笑みを浮かべて言い放った。

当然イザークはその身体をふるふると震わせて、怒りの中やっとで口を開く。
「キぃ〜〜ラあ〜〜っっ!! せめて理由を言えっ、理由をっ!」
言ったところでイザークの怒りが治まるとは思えなかったが、キラはしれっと答えた。

「だって、ザクって弱そうなんだもん。」

アスランとが長い長いため息をはき出すのと同時に、イザーク渾身の罵声が飛び交ったのは、記憶に新しい。
その後ひと悶着あり、結果、キラがフリーダムに乗ることになり、今に至る。


「あのあとしばらく、イザーク手に負えなかったよねぇ?」
「あぁ、そうだな。」

思い出しながら、楽しそうに笑う
その様子を見ながら、アスランは別の意味で笑みを漏らした。


笑っている、が。
ザクのコックピットで。

アスランにとってもそれは、特別な想いが湧き上がる瞬間だった。




知らなくていいんだ、君は。

――――何も。




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【あとがき】
 たぶん、ライナがただのザク好きなんじゃないかと。