「まだウワサですけど、この戦争は近いうちに停戦になると思われます。」

軍本部勤務になっている、同期のニコル・アマルフィ。
彼からもたらされた停戦という情報に、イザークはたいして驚きもしなかった。










〔 必然の出逢い 〕
SCENE:03 −動き出す世界−










どれだけ敵を倒しても終らない。
正義とは、それぞれの立場から見れば、どちらも正義。
はじめから、答えが出せる戦争ではなかったのだから。


「こちらでは、極秘に連合と停戦への会談がすすんでいます。」
隊長室で私的な通信として、ニコルから情報を得たイザークはため息をついた。

「終るのか。・・・長かったな。」
「ですね。―――また何かわかったら通信入れますね?」
「あぁ、頼む。」

通信を切ると、イザークは目を閉じた。
ニコルがこうしてわざわざ通信をしてくるほどだから、まず停戦となるのは間違いない。
だが、問題は自分だ。
果たして自分は、戻れるのだろうか。
戦争のない、世界に―――。


「イザーク? 入りまーす。」
声と同時にドアが開き、が入ってきた。
「昨日の交戦データ報告書、まとめておいたから確認お願い。」
「あぁ。預かろう。・・・助かった。」

イザークの言葉にニコッと笑い、そのまま部屋を出て行こうとするを、イザークは呼び止めた。
。」
「はい?・・・あ、さっきキラとアスランと射撃訓練やろうねって言ってたの。イザークは?」

呼び止めたのはイザークなのに、の方が話をふった。
そんなにイザークは苦笑いしつつも、「ああ。」と答える。
とたんは、ニイッと笑う。

「今日のデザートのプリンがかかってるからね?」
「俺は二個くらい軽く食える。」
実は甘党のイザークだった。
軍の食事はなかなか甘い物は望めないので、今日のプリンは譲れない。

「忘れたか? 俺は射撃トップだぞ?」
「知ってる知ってる。もういいよってくらい。」
が軽く受け流すと、イザークの罵声が飛んできた。

っ! 仮にも今の俺は隊長だぞ?!」
まったく言葉づかいがなっていない! と、鼻息も荒く小言を言い始めたイザーク。
は迫ってくるイザークをかわすように、じりじりとうしろにさがった。
こうなってくると、イザークは手がつけられない。

「はぁーい、ゴメンナサイ。でもやっぱりイザークはイザークなのよ、うん。」
一人で話を完結させて、は部屋を逃げ出した。


射撃場へ足を運びながら、はふと足を止めた。
「停戦・・・・・か。」
盗み聞きなんて、するつもりはなかった。
だが、聞こえてきてしまったものは仕方ない。

イザークが白服になり、ボルテールに配属されてから一年。
アカデミー時代から数えると、実に五年くらい、今の生活は日常的だった。
のいるところにはいつも、イザークがいて、アスランがいて、キラがいた。
当たり前のように一緒にいて、辛いことも、楽しいことも、一緒に味わって。
ここが、にとっての帰る場所だと思っていたけれど・・・・・。

停戦から終戦ともなれば、軍の規模は縮小されるだろう。
戦いが終れば、軍にいる理由もない。
それぞれがそれぞれに、自分の道を歩き出すようになる。

もちろんだって、それを望んでいたはずだった。
一生を戦争に捧げる気なんてない。
けれど・・・・・・。

にとって彼らと別れることは、何よりも辛いことのひとつに思えた。
の身内はすべて、死亡してしまっていたから。
泥沼の戦争を生んだ、あの“ユニウス・セブン”で。

「よろこぶことなのに。・・・ね?」
誰にでもなくつぶやくと、先ほどまでの暗い表情を一変させて、は射撃場にむかった。

残り少ないのなら、楽しまなくちゃ。
この優しい時間を、覚えておかなくちゃ。

―――戦争をしているのに、不謹慎極まりないと、わかってはいたけど。



偶然にも、そのをキラはずっと見ていた。
停戦、とつぶやいて、それを喜ぶそぶりもない

キラも知っていた。
には帰ってももう、迎えてくれる家族がいないことを。

アカデミーの講義でユニウス・セブンの話が出たときに、号泣したを、キラは今でも忘れられない。
出撃していくときの、の口癖。

 『私が帰る場所は、ここだから。』

その言葉を、キラは何回聞いてきたかわからない。
死なないで戻る、という意味以外に、他に帰る場所がない、と聞こえて仕方なかった。

「ねぇ、。今度は僕が・・・・君を・・・・・。」
走り去るのうしろ姿に、キラがつぶやいた。
その決意の大きさは、その声とは比較にならない。


射撃場では、いつものようにアスランに噛みついていくイザーク。
それをたいして気にも留めず、相手にもしないアスラン。
自分のことはほったらかしで、の結果にダメ出しばかりを笑顔でするキラ。
とびきり楽しそうに、ただひたすら銃を撃ち続ける

誰からもこぼれ落ちる笑顔が、いつもと変わりなくあふれていた。




   back / next