アスランのベッドの上に寝転がって、は天井を見上げた。
そのままアスランの方に目をやると、の方には目もくれずにパソコンにむかっている。
きっと新しい回路の組み立てシュミレーションとかをやっているに違いない。
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:02 −日常の中に−
「・・・・・ねぇ、アスラン。」
「何だ?」
が呼べば何ともそっけない返事が返ってきた。
「キラはどこに行ったの?」
はアスランと同室のキラのベッドを見て言った。
いつもなら部屋に遊びに来ると、ベッドでぬくぬくしているキラの姿があるのに、今はない。
「キラなら食堂だ。戦闘前には食べないと力が出ないから。」
何とも親父くさいセリフを真顔で言うアスランに、は思わず吹き出した。
それまでパソコンから目も離さなかったアスランが、ジロリとを見る。
「そんなことより用事は何だ?」
「別にー。用事って用事はないよ? ただ一人で部屋にいたくなかったの。」
この艦にいるパイロットで、女性はひとりだ。
他の職につくクルーと相部屋になることは、ローテーション上避けられていた。
ゆえには一人部屋。
今日の夢を見たあとは、なるべく一人でいたくなかった。
「じゃあイザークの部屋に行けばいいじゃないか。」
アスランの言葉に、顔を赤くしてベッドから身を起こす。
そんなの様子を見て、アスランが笑った。
「そんなに反応するなよ? 俺じゃなくてもわかるぞ?」
「アスランが知ってると思うから、こういう反応になるの!」
猛然と言い返したに、アスランが今度は笑いをかみ殺した。
「・・・・しかし、イザークのドコがいいんだ?」
アスランの言葉に、はふくれた。
がイザークを好きだとアスランに知られてから、それは幾度も言われた言葉だ。
アスランは常にイザークにライバル視されていて、絡まれることも多いから仕方のないことかもしれないが。
いつから・・・、と言われるとにも答えることは難しい。
気がついたら、はイザークが好きだった。
ドコがいいかと言われれば、一言で“優しさ”。
あのイザークがふとした拍子に垣間見せる“優しさ”に触れたとき、心が引かれた。
アカデミー時代からもう五年近く一緒にいる、たちだからこそ知るイザークの姿。
その軍服が“赤”から“白”に変わっても、イザークは良い意味で変わらなかった。
「いくら想ってたって、相手があのイザークじゃ何も気づかないと思うが。」
いち早くの想いを見通したアスランが言う。
けれどはこの気持ちをイザークに言う気はなかった。
今のままでいい。
仲間でいられれば、それでいい。
「アスランといるとなーんかネチネチいじめられてる気がしてきた。・・・じゃあね!」
パッとベッドから飛び降りて、そのまま笑顔と共に扉のむこうへ消える。
アスランはそれを苦笑いしながら見送った。
の姿が完全に消えてしまうと、アスランはパソコンの電源を落とした。
もともと、何もしていなかったのである。
アスランは、自分のベッドに腰かけた。
「まったく。・・・・・人の気も知らないで・・・・・。」
を見ていたアスランだからこそ、気づいてしまったの気持ち。
それからは、まるで相談役のように接している自分。
「これじゃ二の舞だな・・・・・。」
誰にともなくつぶやいた言葉は、鳴り響くアラートにかき消された。
月には地球軍の宇宙基地本部が置かれている。
物量に物を言わせて攻撃してくる連合相手に、ここでの戦闘は得策ではない。
ボルテールは僚艦の脱出を第一の目的としていた。
消耗戦を繰り返すばかりで、勝敗の決まらない戦争。
今日のボルテールの戦いは、まさにこの戦争全体をあらわしているかのようだった。
艦にもモビルスーツにも被害なく戦闘を終え、ボルテールは次に指示されたポイントへむかう。
これが日常。
「。入るぞ?」
ノックの音と同時にかけられた声に、の心臓がドキリと弾んだ。
扉が開き、入ってきたのは白の軍服。
この艦で白の軍服を着るのは、イザークただひとり。
「先の戦闘データをまとめてくれないか? あんな戦いでも報告しなければならない。」
戦い、と呼べるかどうかすら怪しい。
ボルテールはほとんど威嚇的な攻撃をおこなっただけ。
はイザークの胸中を察し、笑顔でフロッピーを受け取る。
「わかった。イザークがまとめたら『くだらん』の一言で終わる報告書になっちゃうもんね。」
笑うにグっと言葉が詰まるイザーク。
どうやら図星だったらしい。
「悪いが明日までだ。・・頼めるか?」
イザークの言葉に、は心外そうに眉をひそめた。
「イザーク? 私、わかったって、言ったでしょ? 平気だよ。」
の答えを聞くと、イザークは口の端だけで笑い、の頭にポンと手をのせた。
「任せる。」
それだけの言葉に、には嬉しさがこみあげてきた。
イザークを見送ったの目には、白の軍服が焼きついて離れなかった。
同じ赤を着ていたときでさえ、力はまるでおよばなかった。
それが今や、イザークの軍服は白。
遠く感じてしまうことに淋しさを覚え、今日のように頼られることに誇りを覚える。
「――――好きだよ。」
はイザークから渡されたフロッピーに、そっと囁いた。
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【あとがき】
次回から少しづつ本題へ動き出す・・・・・予定デス。