眠りが浅くなる明け方に、には決まって見る夢があった。
行かないで・・・・。と、願う背中。
愛しくて愛しくてたまらない人は、振り返りもせず・・・・。
もまた、その想いを声に出せない。
離れていく二人。
あなたは・・・・・・・・だれ・・・・・・・?
〔 必然の出逢い 〕
SCENE:01 −暁にみる夢−
「あ―――・・・。またあの夢・・・・・。」
例の夢を見た日は、決まって涙を流しながら目を覚ます。
痛いほどに覚えている想いは残っても、相手がどんな人物かはまったく覚えていない。
名前を呼びたくても、その名は思い出せない。
「ここまでくると、なーんか映画でも見てるみたい。まてよ・・・本当に何かの映画かな・・?」
だとしても、ここまで激しく感情移入をした映画なんて、タイトルを忘れないだろう。
夢であることに間違いはないのだが、にはどこか釈然としない思いがあった。
それから何かをつかみとろうと想いをはせていると、部屋のドアがけたたましくたたかれた。
「おい! いつまで寝てるんだ! ミーティング、始まるぞ?」
アスランの声に時計を見ると、すでに8時5分前。
「うっわーーっっ!! やばーーい!」
赤の軍服をはおり、ありえないほど早く仕度したは、部屋をとび出すなりアスランに八つ当たりをした。
「遅いよー!! アスラン。起こしに来るならもっと早く来てっ」
「はあ? なら自分で起きてくれ。キラもちっとも起きないし・・・。」
あきれたようにアスランに言い返されるも、はぶつぶつと文句を言っている。
聞けば朝食を食べ損ねたとか、昨日の戦闘データを整理してないとか、何とも単純なことばかり。
それでもそんなことを一生懸命に並び立てて文句を言うがかわいらしくて、アスランはくすくすと笑い出す。
それを横目でニラみつけながら、が言う。
「どーせ総合成績第一位のアスラン君には、凡人の悩みはわっかんないわよーだ。」
ブリーフィングルームへ入ろうとする二人に、後ろから声がかかった。
「あ、とアスラン。おはよ。」
振り向けば同じ赤の軍服の上着を、ただはおっているだけのキラがいた。
こちらもあきらかに寝坊の様子。
「おはよう、キラ。さすがにそのカッコは怒られそうだよ?」
の言葉にキラは「やっぱり?」と返すと、ささっと袖を通した。
そんな二人を尻目に、アスランがブリーフィングルームの扉を開くと、途端に響き渡る罵声がひとつ。
「おそいぞキサマら!! 今日は8時集合だと言っただろーがあっ!」
白い軍服を着たイザークにギロリとニラまれるも、すくみあがっているのはすでに入室している“緑”のみ。
8時3分にやって来た“赤”三人は、ちっとも動じる様子はない。
「だぁってー、私起きたの8時5分前なんだもん。3分の遅刻で済んだんだから、スゴイでしょ?」
「僕なんてね、起きたの8時だよ? スゴイでしょ?」
「あぁ?! 何が“スゴイ”んだか聞かせてほしいくらいだがっ?!」
目くじらを立てながらとキラに答えているイザーク。
今日はどんな終り方をするのだろうと、緑たちがソワソワしだした。
と、それまでダンマリを続けていたアスランが、コントロールパネルに目を落としてイザークに言う。
「もうよせイザーク。そっちの方が長くなりそうだ。」
いったいどっちが怒られるべき立場なのかわからなくなる。
今日は最悪だ・・・・と、緑たちは頭をかかえた。
「アスラン!!・・・きっさまあ・・・・っっ!」
イザークが拳を振り上げると、がぱしっとその手をつかまえた。
「まぁまぁイザーク。悪いのは寝坊した私とキラだし? 早く今日のミーティングやろ?」
にニッコリとほほ笑まれて、しぶしぶ振り上げた拳を下ろすイザーク。
「今日の作戦域だが―――・・・。」
そしてそのまま隊長の顔をつくり、淡々とイザークはミーティングを進めた。
キラとはイザークに見つからないように、ニッと笑いあった。
C.E.70。
開戦からわずか3日後におこなわれた、地球連合軍による核攻撃は“血のバレンタイン”と呼ばれ、多くのコーディネーターたちが殺された。
これにより、ナチュラルとコーディネーターは決定的に決裂した。
だが、両軍共にその後の決定打を欠き、戦局はこう着状態となる。
C.E.74。
開戦から4年の月日が流れてもなお、両軍にらみ合いの戦いは続いていた。
ナスカ級ボルテール。
成人年齢が低く、少年兵が多いザフトにおいても、この艦は特別だった。
ザフト最年少で上官クラスの白服を着るイザーク・ジュール。
その指揮の下、ザフトのトップガンとも言える赤服を着るアスラン・ザラとキラ・ヤマト。
そして女でありながら同じ赤を着る・。
四人はアカデミー時代からの同期だった。
当時の成績はアスランが1位でイザークが2位。
キラが7位で、が10位。
ちなみにキラは好きな課目以外、ほとんどろくに勉強せずこの成績。
もしもキラが全課目を本気で取りにきていたら、その順位は1位から大きく変動していただろうとウワサされている。
いつ終るとも知れない戦いの中に身をゆだね、入隊してからも常に同じ隊を経験してきた四人。
今では仲間という枠を超えた意識が、四人の中に芽生えていた。
「現在月軌道周辺で小隊が連合と交戦中だ。ジュール隊にはそちらの支援命令が出た。」
イザークの言うこうした小競り合いは日常的だったが、全軍全面対決という事態には至らなかった。
いっそのことそうなって、終ってしまえばいいと、誰もが一度は思っただろう。
けれど戦争が日常的となった今となっては、それを当たり前と受けとめてしまっている自分たちもいた。
そして今また、戦争へ艦はむかう。
長すぎる戦いの中で、同期のほとんどがいなくなっていた。
除隊した者、気を狂わせた者、死んでいった者。
その中で彼らは生き残り、軍に残り、今もまだ、戦いを続けていた。
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【あとがき】
まだ本題に入るのは先になりそうです。