「はいィ?」

なんてマヌケな声だろう。と、
頭をかかえたくなるほどマヌケな声を出してしまったに、
クルーゼはチラリと目をやり、

「出発はいつでも構わんよ。・・・今日中であればな。」

最後にプレッシャーを与えて、机の上の書類をパタンと閉じた。

あとはもう何も言い返すことを許さないオーラを出されれば、
退出せざるを得ない。
隊長室に呼ばれていた、
、イザーク、ニコルは、合図を送りあってもいないのに、
カツンッと同じ靴の音を鳴らして敬礼すると、部屋を後にした。


休憩室に帰ってきた3人を出迎えた仲間たちは、
その様子に何があったのかと口々に尋ねてきた。

答えの返ってこない状況に、
パイロットチームお兄さん的存在のミゲル・アイマンが歩み寄った。

、隊長から何て言われたの? 言ってくれなきゃ、ミゲルちゃんキスしちゃうよ?」

何でそのオチ?!

と引きまくっているみんなをよそに、だけは隊長から与えられた任務の方が
気になって気になって気になって・・・。

「潜入活動、だってさ。私と、ニコルと・・・イザークで。」
いたって真面目に答えていた。



ザフトレッドルーキー5人が配属になって数日。
どうして5人も、なのかは明確になってきていた。

中立国であるはずのオーブが、その所有する宇宙コロニー“ヘリオポリス”で、
ひそかに地球軍の最新兵器を開発、製造しているとの情報を、
我らが仮面のクルーゼ隊長がつかんだ。

いままでモビルアーマー一色だった地球軍が、
オーブの軍事施設のモルゲンレーテ社に、モビルスーツを造らせたのだと。

最新鋭の機動兵器が、
本格的に地球軍の手に渡る前に、ヘリオポリスから奪取する。

それが仮面舞踏会の始まりの合図。

・・・じゃなかった、クルーゼ隊長の作戦。

それは誰もが知っていた。
その日がいつ来るのか、もうカウントダウンの状態だった。
だから・・・。



「訳わかんない。何でこの期におよんで潜入?」

ニコルはいい。よりによってイザークと。
・・・と続けてしまいそうだったに、イザークの意外な顔がうかがえる。

笑ってるよ。あの!イザークが。

「バカ! か、お前。
 奪取する、と言ったって、向こうの情報整理をしておくのは当然だろうが。」
ふふん、と高飛車な笑いだったけど。

一番年上のミゲルが“さん”付けを嫌って、
誰にでもそう呼ばせていたから、
クルーゼ隊の隊員の中には年功序列、という言葉はない。

最初のうちこそ多少の遠慮はあったものの、
ルーキーたちも今やすっかりタメ口。

先輩、とはいえは、
イザークやディアッカと同い年だったから、イザークには平気で
バカ。貴様。お前。と言われ放題。
しかも機嫌が悪くなると、八つ当たりし放題。

せめてイザークが一緒なら、ディアッカもつけといてよ。と願わずにいられなかった。
彼がいればたいていの矛先はディアッカに向くのだから。
ともあれ、隊長命令を無視する訳にもいかず、
3人は早々に準備を済ませて、ヘリオポリスに向かった。



潜入だというのに、に用意されたIDカードには本名が書かれていた。

理由、名前からは素性はバレない。
これが地球や、地球軍勢力地なら話は別なのだが、何せオーブという国は中立国。
しかもその法と理念を守るものであれば、
コーディネーターだろうが、ナチュラルだろうが受け入れてくれる国なのだ。
ザフトの軍人と同じ名前。というだけでセキュリティーに警告がかかることはなかった。

ただ、イザークはイザーク・シュールに。
ニコルはニコル・アマンに換えられていたけれど。

さすがにプラントの最高評議会議員と、
同じ名前にするわけにはいかなかったのだろう。
言わずもがな、
二人はそれぞれの親に評議会議員をもつ、おぼっちゃまなのだ。

「それにしてもクルーゼ隊長って、もっと大胆な人かと思ってましたけど、
 ずいぶんと用心深い人だったんですね。
 わかりきってる内部の様子を見てこい、だなんて。」

「ふん。ルーキーだからと甘く見られているんだろう?
 だがっ、そこいらのルーキーなんかと一緒にされるとは心外だな。
 なんたってオレたちは赤・・・。」

言いかけたイザークに、ドカドカっとの鉄拳がとぶ。

「赤ちゃんよねー、イザークったらっ!!」

壁に耳あり、障子に目あり。とは、先人の言葉。
もう工業カレッジのキャンパスにいるのだ。
誰に聞かれてるものか、わかったもんじゃない。

「イザーク、もうちょっと自覚してくださいね。」
ニッコリと言い放つニコルを見て、ピキッと白く固まるイザーク。

がとっさに理解した、ルーキーの上下関係。
(そう・・・ニコルが一番怖いのね・・・。)

うよよ〜んとただようニコルのオーラに、
今回のチームは正しかったです、隊長。と、
こっそり報告してみるだった。





   back / next