〔 始まりのうた 〕
戦って、戦って。
それで平和になるなら、私は。
―――― ザフトの、ために ――――
「何だ、お前は。」
冷たく、まるでののしられているかのように言われた言葉に、
思わず「ごめんなさい」と返したくなる。
ヴェサリウスのパイロットロッカールームで、振り向いたの目には、
ものすごくキレイなプラチナブロンドの髪と、
ケタはずれにととのった容姿をした赤服がとびこんできた。
お前こそ誰だよ、と言いそうになって・は
“ああ、そうか”と思い当たる。
きのう、クルーゼ隊長が言っていた。
ルーキーが5人、配属になると。
「そのうちの1人、か。」
意識なく言葉にしてしまったに、彼はますます眉間のしわを濃くした。
「ここで何をしている!
ここはお前のような女が入るような所ではないだろうがっ」
一方的にどなりつけられて、(しかも性別でののしられて)はムっとした。
でも、そんな様子を不用意に表情に出すことはしない。
はニッコリほほ笑むと、彼のプラチナブロンドの髪に手を伸ばして言った。
「あら、ルーキーくん?
まずはごあいさつからって、アカデミーでは教えなかったのかしら?」
髪にの手がふれる前に、スッとかわして、
嫌悪感をますます強めた彼は、なおもジロリとを見た。
「・・・イザーク・ジュールだ。今日からヴェサリウス、クルーゼ隊所属になった。」
ルーキーと声をかけられ、さすがに女でも先輩だと思いなおしてくれたのか、
あっさりと名のったイザークに、は少なからず好感をもった。
初対面でどなりつけられておきながら、何だかな。
なんて、自分にあきれてしまう感もあったが。
「私は・。同じクルーゼ隊所属のパイロットよ。
・・・で、私がここにいちゃ、マズイの?
いきなりどなられたって、理解できないわよ?」
パイロット、のところで一様に驚いたイザークの顔を見て、
はさらに追い討ちをかける。
「緑、だからCICか何かだと思った?
同期にはいなかったのかしら? 女性のパイロット候補生は。」
「なにィ・・・っ!」
「せっかく私のパイロットスーツと同じ髪の色をしているんだもの。仲良くしましょ♪」
くすくすと笑いながらその場をあとにするには、
イザークの歯ぎしりがまるで聞こえていなかった。
「なんだ、誰にでもああなんだ、イザークってば。」
目の前でくりひろげられているイザークとアスランの言い争いに、
(といっても、イザークが軽くあしらわれているだけにも見えるけど)
はねぇ?と同意を求めて、
同じくその光景をただ見てるだけのニコルとラスティにコーヒーを差し出した。
「アカデミーにいた頃からアスランとは特に、ですけどね。
も、イザークに何か言われたんですか?」
色白で、ふわふわにやわらかい綿あめのような、
まだあどけなさの残る少年が言った。
彼がニコル・アマルフィ。
そして
「だからねぇ、神様はあの容姿端麗、完全主義者のイザークちゃんに、
いっこだけ欠点を与えたんだよ。」
短気、かんしゃく、負け惜しみーってねー。と続けたラスティに、
「いっこじゃないじゃん!」とは心の中でつっこんでみた。
あざやかな橙の髪、フランクなノリの彼が、ラスティ・マッケンジー。
「ほらー、イザーク。もぅ、いいかげんにしろっつーの!
・・・どうせ相手にされてねぇんだから。」
「なにいィィィィ!
ディアッカぁぁぁぁっ、貴様という奴はーーーーーっ!」
止めに入ったはずが、逆に彼の反感をかって、
ターゲットに切り替えられた金髪の、彼がディアッカ・エルスマン。
あきれた顔をしながら、自分はもう関係なくなった、と歩いてくる
藍色の髪をした、年の割わりに大人びた彼、がアスラン・ザラ。
さっきクルーゼ隊長に紹介されたばかりの彼らと、
その直前に遭遇していたイザークをあわせたこの5人が、
今日から配属されてきたルーキーたちだった。
ルーキーが5人も、というだけで異例なのに、
5人は全員アカデミー卒業時に、“赤”を与えられたエースパイロットだった。
“赤”は、アカデミー時代に成績優秀者だけが与えられる特別なもの。
軍服、パイロットスーツにその色をまとう事を許され、
誰から見てもその能力の高さが知れる、特別な色。
でも・・・・。
は思った。
(性格っていうジャンルが、もしもアカデミーの成績の中にあったら、
間違いなくイザークって“赤”じゃなかったかも・・・・。)
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