嵐くんへ


子供たちの喜ぶ顔が浮かぶなぁ。
オリンピックにこれから出る選手が教えてくれるなんて、贅沢。

道場で子供たちを教えるのが夢、かぁ。
やっぱり嵐くんはすごいね。
夢がひとつじゃないんだもん。
きっと叶えちゃうんだろうなぁ。


道場かー。
懐かしいな。
オリンピックに出る選手のいた部活を、私がマネージャーしてたって自慢しちゃお。

うそうそ。
そんなの自慢じゃないよね。
私がすごいんじゃなくて、嵐くんがすごいんだもん。
高校生の頃からすごかった!って、みんなにアピールしておくね。
応援してくれる人が増えると、やっぱりそれは力になるよね。
それに、たくさんの人に嵐くんの柔道を見てほしいから。

今思い出すと、プレハブだったけど、高校の柔道場ってすごく神聖な場所だったね。
気持ちが引き締まるっていうか、空気が違うっていうか・・・。
神棚を掃除するときはいつも緊張したの、覚えてる。


私が思い出すはば学の部室には、高校生の頃の嵐くんがいるよ。
だから余計に神聖な場所に思えるのかな。










***








自慢しろ。
がいなきゃ、今の俺はいねぇんだから。
俺とお前と二人でつくった柔道部だろ?
がいなかったら、俺、本気で続けられてたかわかんねぇよ。
だから自慢しろ。
は最高のマネージャーだって、俺も言っとく。

夢を叶えるって、そりゃそういうモンだろ?
叶わないと思ってやってることなんてねぇよ。



不二山嵐






***






嵐くんへ


自慢しちゃった!
だってまた嵐くん、新聞に出てたから。

大学の柔道場って、すごく広いんだね。
なんかこの前のメールで高校の部室のことあんな風に書いちゃって恥ずかしい。
比べ物にならないね。

あのとき一流体育大学付属高校に行ってたら、こんなすごいところで練習できてたんだよね。
いまさらだけど、ごめんね。
私たちのせいで、嵐くんを引き留めちゃった。
もし転校してたら、高校生でオリンピックも夢じゃなかったのにって考えちゃった。

ごめんなさい、嵐くん。










***









謝んな。

はば学に残ることを選んだのは俺だ。
それに後悔なんてしてねーから。
俺の今の柔道があるのは、はば学があったからだ。
引き留められたんじゃねぇよ。
俺が決めて残ったんだ。
だから謝んな。

部室のことだって、何が「恥ずかしい」だよ。
あそこは俺たちの城だろ?
そりゃ、設備は全然違うけどさ。
あの部室のほうが、俺にとってよっぽど意味がある場所なんだ。
今でも俺の大切な場所なんだ。
変わらねぇよ。

なぁ、
俺だけか?そう思ってるの。



不二山嵐










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【あとがき】
 思い出って、切ないときがあるね。