2004.05.04

      東京芸大の奏楽堂で吉田雅夫先生追悼コンサートがあって、出かけた。かれこれ30年近く前に初めて質屋で入手したフルートを練習するのに、教則本としては吉田雅夫先生のものしかなかった。日本でのフルートの創始者である。演奏会はとても感動的であった。

第1部孫弟子を中心としたフルートオーケストラでは、バッハの反進行拡大カノンを中野富雄(fl)、柳原佑介(alt.fl)で吹いて、金のフルートなのに優しい音で、まるでニコレのような感じがした。木の脇道元・斎藤和志の「贋作」シャコンヌはすごく面白かった。ピッコロとバスフルートである。C.ニールセンのフルート協奏曲第一楽章(神田寛明編)も初めて聴く曲であったがなかなか引き込まれた。オーケストラがフルートだけでソロが高木綾子である。高木綾子は低音部の響きが独特の深みを持ち、表現力がある。やはり大物である。

第2部は弦のオーケストラで、工藤重典と酒井秀明の吹いたG.B.ヴィオッティの二本のフルートのための協奏曲も面白かったが、何といってもマタイ受難曲中のアリア(ペトロが自らの裏切りを知ったときの有名なもの)が感動的であった。バイオリンのオブリガートが小林美恵でとても美しい弓さばきに見とれていると、アルトの栗林朋子が感動的な歌を聴かせた。ちょっと涙がこみ上げてきた。もっともこの曲はそういう曲ではある。モーツァルトのフルートとハープの為の協奏曲は佐久間由美子が安定した素晴らしい演奏であったが、ハープが冴えなかった。

第4部は「上野の杜の笛の会会員・日本フルート協会会員の有志によるフルートオーケストラ」で、最初の武満徹:二本のフルートのための「マスク」(野口龍・小泉浩)は音色表現の見本みたいでなかなか惹きこまれた。最後はフォーレのレクイエム。全体にバッハの印象が強く残ったのは金昌国先生の影響力なのであろうが、やはり西洋音楽の中でのバッハの曲はある種の普遍性みたいなものを持っている、という事もある。単にバロック音楽の総合ではなく、バッハの中には人間が避け得ないものとしての「死」に対する想念がどの曲にも深く刻まれているという気がする。

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