2007.02.07

   「ヴァーチャル・インファント」久野雅樹・須賀哲夫(北大路書房)を読み終えた。横書きのせいか、本屋に置いてなくて、アマゾンで買っておいた本である。コンピュータ上に仮想生活世界と赤ん坊のモデルMLASを設定する。その目的は第一言語を獲得させることである。

基本となるのは、とりあえず赤ん坊における完全な記憶と受け取った単語の連鎖の相互比較による差異検出である。言葉は単語分かち書きで与える。これは音韻処理の部分を省略したかったからである。赤ん坊は記憶に納められた単語の連鎖を比較し、共通部分を抜き出し、それにしたがって記憶を整理して勝手な法則を作り出す。そしてそれにしたがって発話を試みる。この部分、すなわち生活環境の無い、単なる単語羅列情報だけで、統語的な規則を身につけることができる。

しかし、それでは意味の世界が生じないから、人工的な最低限の仮想生活世界の中に置き、「指差し」動作を伴った言葉のやり取りによって、言葉の「意味」を獲得していくのである。「意味」は具体的なストーリーと発話を通してのみ生じる。勿論MLASは世界の中の物体のさまざまな属性にもとづいて知覚することはできるが、それらの属性について何ら前提となる知識をもたない。経験されるストーリーをだた「差異・共通性抽出原理」を用いてまとめていき、その結果、意味は具体的な発話と出来事の集積として記述されるのである。

実際の子供は「共同注意」の能力によって、言葉が発せられる場面において、無限の可能性のある環境世界から非常に限定された部分だけに注目している。このことによって、意味獲得は容易になると考えられる。

MLASには文の3重の入れ子構造が可能なように設定してあって、それによって、自分と他者の認知に達することができる。「ルールを作り出す」という部分では使用言語LISPの特徴が生かされている。これは動作によって自らプログラムを作り出すことのできる言語なのである。これだけの設定で5〜6歳児に相当するさまざまな言語を獲得することができる。なかなか自分でやってみないと実感が湧かないが、そうかもしれないと思わせる。http://www10.ocn.ne.jp/~mlas/にその後の報告がある。

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