2024.06.29

NHKスペシャル ヒューマンエイジ 人間の時代 第4集 性の欲望 デジタル技術 “解放” か “堕落” か(6/23放送)。

    3年位続いた「ヒューマニエンスー40憶年のたくらみ」という人間科学シリーズが終わって、新たに始まったシリーズである。やや心理学ー社会学寄りの視点となっている。今回は「性欲」の問題。性欲は勿論有性生物の本能であるが、ヒトが2足歩行により女性が早期出産ー育児の負担を強いられることになると、育児を助けるための男性の協力が必要になった。というかそういう風に進化した。つまり、従来は特定の発情期だけに性欲が発動していたのに対して、発情を不定期化して男女の結びつきという社会的な目的の為に性欲が利用されるようになった。生殖目的以外への性欲の利用の原点である。やがて、富の蓄積による社会の安定化と大規模化と階層化が進み、性欲の社会的コントロールが行われるようになり、フロイトが分析したような心理症状、つまり性のタブー化とそれを補うための性の商品化が進んだ。子供達を性刺激から遠ざけるような社会的規制が一般的になり、子供達は性への好奇心からさまざまな探索を行うことになる。

    そういえば、小学生の頃、男女関係の根も葉もない話がもてはやされていたのを思い出した。大人の世界を観察して、子供達はいろいろと勝手な想像をして楽しんでいた。でもまあ、成熟して実際の男女関係が許されるようになると、一部の子供達は暴走してしまうけれども、大多数は実践から学ぶようになるのである。文字情報や絵画情報が発展してくると、子供達だけでなく大人達にとっても、それらから性への好奇心を刺激されるようになる。そのような状況でも「恋心」が生じるのが不思議である。それは中学生になってからだった。高校生でもそうだったのだが、恋の対象は確かに女性ではあったが、性の対象ではなかった。何かしら「保護すべき人」という感じである。多分にそれは、保護された家庭環境から独立したいという、社会的欲求を反映したものだったのだろう。実際に恋心と性欲が結びつくには通常の交際関係が必要である。性欲というのは本来触覚的なものだろうと思う。お互いの身体をまさぐりながらやがて性器に到達する。性器をまさぐっていると自然に発情してきて、性交に至る。交際に付随する行為とでも位置付けられるだろう。

    さて、その頃から今まで、先端情報技術は必ず性情報に適用されてきて、性の視覚化と商品化に重要な役割を担ってきた。恋愛抜きの性である。学生時代、袋に入ったエロ写真集が自動販売機で売られていたのを覚えている。僕も買ってみたことがあるが、酷いものだった。時々良質の写真が掲載されるのは男性、若者向けの週刊誌であったが、勿論セックスの写真ではない。その頃一世を風靡したロマンポルノ映画とは繋がりはよく判らないが、ビデオテープの技術が応用されてアダルトビデオが出始めたのは、結婚して会社に入ってしばらく経過した頃ではなかったか、と思う。時々レンタルビデオ屋さんで借りてきて鑑賞していたが飽きてしまう。性器にパッチを貼って性交を演じるのが一般的で、実際に性交するのを生本番とか称していた。次のエポックはインターネットである。まだ電話回線で探索していた頃から、セックスの場面を動画で載せていたサイトがあった。かなり私的な動画であって、これも酷いものであった。やがて、動画の記録がディスクになり、それがハードディスクの高容量化によって衰退していく一方で、演算装置とメモリーの急速な発達によって動画の圧縮技術がソフトウェアーで実現されるようになって、インターネットの普及との相乗効果で、ネットポルノの時代になった。日本の法律をかいくぐった海外のサイトでの違法ポルノコピーサイトが勃興してきたのは、10年位前からだったように思う。

    番組では、もっと手の込んだ恋愛関係まで模擬してしまう有料サイトの説明があった。会話も含めて親密な関係を AI と築くことになる。若い人たちがこのようなネットポルノを使って自慰行為をするようになって、賭博などと同じ類の依存症になる場合がある。実際脳の深部で起きていることは同じであった。抑制に関係する尾状核の萎縮である。こうなると、現実の性交が出来なくなるという症状が増えていることを紹介している。これは先進国における少子化の促進因子の一つと言われている。結論としては、このような情報技術による仮想性体験というのはファンタジーとして楽しむ範囲にとどめること、そして性をタブー視するのではなく、もっとオープンに語り合うことで自然な性関係を取り戻せるのではないか、というところであった。最後には大手デパートで性具の展示販売をしている場面が紹介されていた。印象としては、タブーに取り組んだことは評価できるが、やや雑駁な結論になってしまったような気がする。却って、ネットポルノの宣伝になってしまったのではないだろうか?

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