2022.01.25
テレビで映画『小さいおうち』を見た。黒木華の女中(タキ)役がなかなか良かった。雪国で育ち、東京で女中になった。モダンでかわいい赤い三角屋根の 小さなおうちに住むおもちゃ製造会社の社員一家(平井家)。奥さん(時子:松たか子)は連れ子の再婚で、おしゃれな美人。女中というと、この頃(昭和 10年)立派な職業で、花嫁修業という意味もあった。働き者のタキさんは家族に愛され、幸せであった。

・・・満州事変から日中戦争、南京陥落のあたりまでは、日本全体に楽観的な気分が横溢していた。その後アメリカの対日政策が変わり、日本は追い詰められていく。そういう時代背景の中で、時子はおもちゃ製造会社に入ってきたデザイナーの男(板倉)と懇意になってしまう。夫は最後まで気づかないが、タキさんは浮気を察知する。会社の命令で板倉にお見合いをさせようということで、時子が板倉を説得する役目を負うのだが、その中で二人は深みに嵌っていく。やがて病弱で徴兵を免れていた板倉にも徴集令状が来て、最後に時子が会いに行こうとするのだが、使いにやられたタキさんは板倉が見つからないという。赤い三角屋根の小さなおうちも平井夫婦も東京大空襲で焼けてしまった。

・・・物語全体の枠組みとしては、郷里に帰ったタキさんの晩年に親戚の男の子が懐いていて、彼女に自伝を書かせる、という設定である。自伝を書かせた男の子は昭和10年という時代を知っているから、タキさんが当時のことを何の不安もなく楽しかったと語ることに抵抗する。しかし、一般的な国民は中国戦線で何が行われていたについても、アメリカとの戦争の現実性についても、何も知らなかったのである。タキさんが亡くなった後で、彼は、偶然、徴集されて南方戦線に行った板倉氏が無事帰国して絵描きになっていて、有名な絵本を描いていたことを知る。その主題が赤い屋根の小さなおうちであった。更に、その追悼展覧会場でタキさんがかわいがっていた奥さんの息子が生きていることを知って訪ねる。時子が板倉に会うためにタキさんに託した手紙が開封され、時子を騙して会わせないようにしたことが物語の最後に判る。このことは彼女の自伝でも隠されていた。そのことを彼女は一生悔やんでいたのである。
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