2022.05.03
中島みゆきのアルバム『LOVE OR NOTHING』は、全体に歌い方が強烈すぎて、長い間どうも好きになれなかったのだが、『ひまわり"SUNWARD"』が切っ掛けで、なかなか良いなと思うようになった。前半では中島みゆきという人のアクの強さを全面に押し出している。タイトルがそれを語る。恋愛関係においても中途半端が堪えられないのである。下着姿のジャケット写真が話題になったらしいが、こんな私を受け止める覚悟がありますか?という一種の挑戦状である。そういう視点で個々の曲を聞いてみると納得する部分がある。
・・・出だしは大ヒット曲『空と君のあいだに』である。ただし、アレンジも歌唱も軟らかくなっている。男に騙される少女を彼女の飼い犬が思いやっていて、「君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる」という。LOVE の理想形だろうか?
・・・2曲目が『もう桟橋に灯りは点らない』。過去の純愛の場所だった桟橋が撤去されてきれいなビルが建つらしい、ということでひたすら懐かしんでいる。「誰もおぼえていないあの桟橋」、つまり2人だけのもの、それが LOVE ということである。
・・・3曲目が『バラ色の未来』。バラ色というのは考えてみればどんな色なのか判らないのに、素晴らしいと思い込んでしまう。そんな中身の判らないものを人は信じてしまい、それが無いと生きていけないとさえ思う。明示されていないが、これも LOVE の一面である。
・・・4曲目が『ひまわり"SUNWARD"』。戦争で国境が動くけれども「ひまわり」は動けない。どんな国になっても「ひまわり」は咲き続ける。時間も空間も差別しない強い愛というのも LOVE である。この曲は返還直前の香港での公演(1995年)で最後のアンコール曲として歌われ、特別に広東語の訳詞が配られたらしい。国が変わっても強く生きてほしいというメッセージになった。この歌が作られた切っ掛けについては判らないが、年代から想像すると、ユーゴスラビアの解体を巡る紛争が影響していると思う。何故「ひまわり」なのか、については映画「ヒマワリ」のイメージがあったのだろう。現在ロシアに侵攻されているウクライナを象徴する花である。採譜してみた
・・・5曲目が『アンテナの街』。アンテナというのは多数者の習慣に従わない者を見張る装置という意味である。2人で街を出よう、この街で争ってもむなしいから、逃げてクズと呼ばれよう、と歌う。これも LOVE の一形態である。
・・・6曲目が『てんびん秤』。女は一途に想っているのに、男は2人の女をてんびん秤にかけている、という状況を第3者視点から描いている。「恋情と愛情は彼女のため 友情と同情はあたしのため」である。それくらいなら NOTHING にしたいというのが中島みゆきである。
・・・7曲目が『流星』。全国ツアーの途中で高速道路のサービスステーションでたまたま出会った大型トラックの「おっちゃん」との会話。見知らぬ者同士でも、お互いに流れ者ということで思いやりの言葉が交わされる。こういうのも LOVE の一種だろう。この曲は中島みゆきお気に入りの曲らしい。僕もこのアルバムの中では一番好きな曲である。「トラックに乗せて」とか「タクシードライバー」と同類の曲。つかの間の休息気分である。
・・・8曲目が『夢だったんだね』。この年になって、やっと出会えたと思ったのに駄目だった、という失恋の歌である。「願いと予感はまちがえやすい 信頼と期待はあまりにも似ている」という表現が中島みゆきらしい。ここからテンションが下がってくる。もはや諦め気分である。
・・・9曲目が『風にならないか』。空回りばかりしている恋愛に疲れてしまった気分をうまく歌にしている。もういい加減にして風にでもなろう、という表現。
・・・10曲目が『You never need me』。タイトル通りの詞で説明の必要もない。同情するしかない。それにしても、男の側から見れば、付き合い方の難しい女ではある。
・・・最後の曲が『眠らないで』。結局失恋に終わったけれども良いこともあった。それまでも夢にしてしまわないように、起きていよう、という事で、「LOVE OR NOTHING」という事で威勢よく始まったこのアルバムも、いつもの中島みゆきの歌に戻った感じである。

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