2005.06.05

       吉田都は以前 Robert Heindel という画家の絵で初めて知ったバレリーナである。Hivision特集「輝く女」シリーズで「吉田都」があったので録画しておいた。オンディーヌのリハーサル風景を追いながら彼女のバレー人生を語る。40歳である。独特の自然な雰囲気を持っている。一生懸命に手足を伸ばしたりバランスを取ったり、といった力の入れ具合が見えない。動作の表情が豊かである。勿論これらはトップダンサーの条件でもあるのだが、彼女の場合、体型にもよるのであろうか、やや子供的な体型から繰り出される身体の表情は、何と言うか、普通のバレリーナが宙を舞うのに対して地を這うという感じがある。だからとりわけ自然で安定しているのかもしれないし、そうだからこそ地を這うように感じられるのかもしれない。オンディーヌが水中から上がって水を払って地上を歩き始める、といった一連の動きを何とも自然に納得させるように踊るので、何の説明も無いリハーサルであったのに判ってしまった。勿論マイム的な振り付けになっているのであるが、すっかり惹きつけられてしまう。「音楽性」という言葉が出てきたが、確かに音楽そのものになりきっている感じがして、それで自然なのかもしれない。他のバレリーナとは身体のバランスの取り方が違うらしくて、相手役が手を添えるのに苦労していた。都は一人で美しいから何もしなくていい、というか何もしないでいて都に合わせるというのが難しいらしい。しかしこれは二人の踊りであり、騎士は海の妖精オンディーヌにキスをしようと懸命だし、オンディーヌはキスを許すと騎士が死んでしまうと知っているから必死で誘惑に抗して避けようとする、という何とも切ないシーンなのである。最後の本番の舞台では美しく仕上がっていた。とはいえバレリーナというのは極限まで身体を鍛え上げる。トウシューズの選択一つで大怪我をする。親指の関節を微妙に使って姿勢をコントロールするのだそうで、うまくシューズで支えないと捻挫や骨折を齎す。白鳥の湖と眠りの森の美女は背中に負担がかかりすぎるのでもうできない、ということであったが、そういった身体の衰えとは逆に表現力は深くなっている。「昔と同じようには踊らないし、踊れない。」結局のところ西洋の文化であるバレーの中にあって、西洋人になりきろうとした若い頃に対して、自分の感じることを素直に出すようになってから次第に認められるようになったのである。

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