2006.10.08

水波誠「昆虫−驚異の微小脳」(中公新書)

      近年の脳の研究は人や猿ばかりではなかったということであるが、基本的な脳の機能としては哺乳類と変わらないのに改めて驚いた。特に記憶を担うとされているキノコ体の話や陳述記憶としてのミツバチの八の字ダンスの話や偏光を検出して方角を判断して記憶しているといったこと。(身体で覚える手続き記憶とシンボルで覚える陳述記憶は異なる場所で行われる。哺乳類ではそれぞれ小脳と大脳。)記憶のメカニズム自身は、関わる遺伝子が共通していることから、先カンブリア紀に甲殻類や昆虫の祖先と脊椎動物の子孫が別れる前に出来ていたらしい。昆虫は哺乳類に比べれば確かに記憶による学習判断よりは本能による定型判断が多いが、逃避行動や生殖行動は哺乳類でも基本的に定型判断であり、捕食行動は環境の変化に対応する必要性から記憶による学習判断を必要とする。昆虫は生存場所を限定することで出来るだけ学習判断の負荷を減らすようになっているだけである。この逃避生殖捕食、というのは動物行動の3要素ということで、ヒトにもそれを当てはめることでいろいろなことがすっきりしてくるかもしれない。
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