2018.04.27
    随分長い間かかって佐藤優の処女作『国家の罠』を読み終えた。鈴木宗男事件については当時何だかよく判らないままに済ませていたのであるが、やっと判って来た。なかなか込み入った話で、頭に入りにくいので、途中で止めようかと思ったのだが、西村検事とのやり取りの辺りから面白くなってきた。

    「国策捜査」という概念を世に知らしめた本で、ベストセラーになったらしい。官僚や政治の世界は世の人々の常識とはかけ離れた処があって、時代の変わり目において、それを軌道修正する必要があり、その為に典型的な人物を生贄にする、ということである。検事自身がそう言っている。ロシアとの平和条約と北方領土返還に力を尽くしていた鈴木宗男とそれを支援していたノンキャリア外交官佐藤優が、仕事をやりすぎたが故に、外務省幹部と東京地検に狙い撃ちされた、ということらしい。ただ、これには、鈴木宗男が体現していた2つの路線を葬りさるという意味があったという。内政におけるケインズ型公平配分路線(地方の言い分を吸い上げて利益を還元する)からハイエク型傾斜配分路線(新自由主義)への転換と、外交における地政学的国際協調主義(ロシアやアジア重視)から排外的ナショナリズムへの転換である。検察はマスコミによって煽られる世論を重視して、有罪−無罪の閾値を自在に変え、本人が気づきさえもしない犯罪の意図を作り上げる。

     エッセンスだけを知るには文庫本あとがきだけで良かったかもしれない。そこには、佐藤優の面白い人生観もある。彼は沖縄の出身ということもあって、「人間の生命は一つであるが、魂は複数ある」と考えている。だから何があっても感情的に動揺することなく、冷静に立場を変えられる。具体的には、ナショナリスト、知識人、キリスト教徒。裁判において彼はナショナリストとしての立場から外交上の秘密を守り通した。彼の有罪が誤りであることは1930年に情報公開で明らかになるという。事件後は知識人としての立場から著述活動をしている。
<目次へ>  <一つ前へ>    <次へ>