2017.10.28

      京都への行きかえりで、家にあった篠田節子の「絹の変容」(集英社文庫)を持っていって読んだ。彼女の処女作のようである。

    特殊な構造の絹糸を紡ぎだす蚕を偶然見つけて、養蚕の為に育てようとする。それは干渉効果で虹が立ち上がるような不思議な光沢を持つので、昔からその村では嫁入りのときに布を持たせたということであるが、特殊な葉しか食べないので神社の付近に少数生育しているだけなのである。しかし、バイオテクノロジーによって蚕は肉食に変えられて大量に飼育され始める。その研究者が近くの研究所を飛び出してきた女性である。しかし、首謀者たる包帯屋の若旦那の妻から疑われて不意を襲われ、そのときに蚕がその妻に触る。妻はアレルギー体質で絹のアレルギーで死んでしまう。またそのときに蚕が一部逃げ出して近辺に広がるのである。そこからパニックが始まる。この辺まで、まあ吸い込まれるように読んでしまった。要するに旺盛な雑食の蚕になったために大量に発生し、アレルギー体質の人には致命的な打撃を与えるということで、また肉食性なので家畜を襲って食べてしまう。絹織物自身もアレルギー体質のモデルを殺してしまう。

    大騒ぎの中で、女性研究者はもとの研究所に忍び込んで蛾に致命的な打撃を与えるカビを盗み取る。これを蚕に注射して、しばらくの間は交尾できないように性ホルモンを押さえる処理をしてから放つのである。そうすると健全な蛾と交尾して、カビはこの種を全滅させるまでに到る。女性研究者はしかし誤ってカビを大量に吸い込んでしまい、肺炎で死ぬ。最後に飼育室から再び何匹かの生き残りの健全な蚕が忍びだしているところで終わる。ちょうど見学したクリニックで厳重な細胞培養の管理を見せられた後だったので、バイオテクノロジーの危うさを実感した次第である。それにしても1991年の発表であるから、結構先駆的な眼を持っていたのだなあと思うと共に、よく調べたなあ、と感心した。

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