2018.03.18

  去年から図書館に予約してあった門井慶喜『銀河鉄道の父』(講談社)の順番が回ってきた。宮沢賢治の父親による息子の話である。世間的には敗北者であり、変人として生きて、絶望の挙句、最終的には詩人・童話作家となった賢治を溺愛してやまなかった父親の心情が綴られていて、興味深い。現在ではどこかしら近代を超越した神のような視点から世界を見ている感じのする宮沢賢治という存在が意外なほど身近に感じられた。死ぬ間際に手帳に書いた「雨にも負けず」の詩についても、父親によれば、これは賢治なりの悪戯なんだ、という。言葉の力というか言語能力というのは不思議なもので、何かしらその個人の想いをはるかに超えてしまう場合がある。まあそういうのは天才という言い回しで取り繕うしかないのであるが、本人の弁では、法華経と進学して学んだ鉱物学や気象学や農学の知識と教職に就いた時の子供にも判りやすいような授業の工夫の賜物だという。その成果が愛する妹トシに向かって注がれた、ということになる。
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