2005.04.16「微笑みに出逢う街角」(2002年カナダ−イタリア)


    シャンテシネで「微笑みに出逢う街角」を見ました。映画を見るのは久しぶりで、ストーリーはなかなか大人向けでしたから、惹きつけられました。

    戦場の女性記者とチェリストと主婦と、3人の生活と過去が織りあわされていって、3人共「娘」という共通項に集約されていく、という話です。

    戦場の記者は、アンゴラで取材したときの炎の中で撮った女の子の写真がTime紙の表紙に載るのですが、救命しなかった自分が許せなくなって、職業としての写真家を捨ててアンゴラでのボランティアに行くという筋です。

    チェリストは昔父親が母親を殺して刑期を終えて出てきます。家族というものが信じられなくて、家に夫と娘を残したまま、コンサート旅行から帰ろうとしなくて、連絡も取らない。しかし、父親が人の身代わりになって殺されるという事件に遭遇し、彼の持ち物から自分の成長を生甲斐にしていた事を知り、家に帰ろうと決心をします。

    主婦は子供の頃身ごもったのですが、子供を産んで直ぐに引き離されました。現在は車椅子生活の人とあえて結婚して世話をしています。夢の中に大理石から人の彫刻が産まれて出てくるという夢に悩まされ、それを絵に描くようになります。ところが自分の夢の中に出てくる彫刻作品で娘が彫刻家として有名になっている事を知り、夫を捨ててフィレンツェに行きます。

    3人がトロントの空港で偶然同じテーブルに待ち合わせることになります。そこに一人の見知らぬ女の子がじゃれてきて、見知らぬ3人が顔を見合わせて微笑む、というのが最後の落ちです。

    微笑みというのは、進化論的には赤ちゃんが親達の注意を惹きつける為に身につけた、と言われています。赤ちゃんの微笑みは心理状態とは何の関係も無いのです。そういう人間にとっての原初的で無意識な表現を主題にした映画という次第です。人の命をどこまでも肯定していこうという意味でしょう。もっとも原題は Between Strangers という事なので、この解釈は日本語訳に誘導されたのかも知れません。最後の3人の微笑みもそれを通り越して爆笑になっていましたから。

    個人的には、舞台がトロントだったので、懐かしかったのと、バッハの無伴奏チェロ組曲が使われていて、ちょっと満足。でも、入場料で老夫婦割引があったのに忘れてしまって、ちょっと損をしました。

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