1999.12.18

    「ヒトの誕生」葉山杉夫(PHP新書):大型爬虫類が絶滅した後、哺乳類の進化が始まる。一つの枝がジャングルの樹上生活に適応した原猿類であった。アメリカ大陸で進化して、地続きだったアフリカ大陸に移りそこで真猿類になるが、元の原猿類は絶滅。再びアメリカ大陸に真猿類の一部が移り、その後の大陸分裂で別系統に進化した。樹上生活の為に足を使った木登りや枝掴みが進化した。足の運動性は後の歩行への準備となる筋肉を発達させた。足の指が4本対1本(親指)の構造となる事で足で枝を掴めるようになる。更に類人猿では肩の関節が3軸性になることで、複雑な枝渡りが出きる様になった。指紋が出来たのもこの時である。肘関節が回転するようになるのはヒトになってからであるが、やはり枝渡りで準備されている。3次元構造の複雑な樹上世界を認識するために猿は視覚を発達させた。眼が前に移動することによる立体視と明るい樹上生活で果物を見分ける為の色感覚である。世界の空間的立体構造を認識するという能力は猿とヒトに特異的に発達している。平衡感覚も発達させた。食性上の適応として、アルカロイドのある葉を食べる為に少量多種の習性を身につけ、盲腸を発達させて内部の細菌によってセルロースを分解。一子一胎盤と生理的早産は天敵の居ない生態系での人口調節に役だった。700-1000万年前に起きた大地殻変動と気候変動により、東アフリカの猿は樹上生活を追われた。この時既に二足歩行の準備は出来ていたと考えられる。

    「ヒトの誕生」で面白いのは猿回しの猿の話である。訓練によって二足歩行を身につけた猿は背骨のS字曲線を作っていて、完全に2本足で立つように適応している。2本足で立つようになれば手を使いそれによって脳が発達するのは自然である。次が言葉であるが、著者のオリジナルと思われる研究は霊長類における「息こらえ」の意義を明らかにしたとことである。手で枝を掴み身体を支えて、身体を捻る為には肩関節で繋がるべき上半身が固定されていなくてはならない。肺から空気が出入りしていてはなかなかそうは行かないのである。そのために喉頭部を瞬時に閉じる必要が生じた。身体を支える為に大きな圧力が溜まっているのが瞬時に開放されるのを緩和するために大型類人猿では喉頭小嚢が発達しているくらいである。いずれにしてもこの圧力の開放が発声となる。しかしこれだけではまだ分節した言葉を操る訳には行かない。2足歩行に適応し、発達して重くなってくる頭を支える為に脊柱の真上に移動し、気道が喉で直角に曲がるようになった。いままで喉頭部を廻りこむ様にして食物が立体交差していたのだが、空気のは入り口が上がってしまい喉頭部が相対的に下がって来て、食物が喉頭部の上を通るようになると今度は食物が気道を塞がない様に複雑な制御が必要になった。これが完全になったのはやっと20万年前、すなわち現代人類になってからである。それと共に喉頭部の上に広い共鳴空洞が残ったのである。この様になって始めてヒトが幼児語の段階を脱したのだと思われていたが、最近の舌下神経管の長さ比較によって、まだ共鳴空洞が充分に発達していなかった30万年前のネアンデルタール人を含むヒトはかなり言葉を喋っていたという事になっている。

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