東武日光駅まで行って裕子は日光彫の店の工場で材料探し。その間康文さんのお土産を買いに車で井澤屋まで出かけてまた駅まで帰った。駐車場というものがない。裕子から電話があって途中で拾ってからペンション「トロールの森」まで登ったらまだ12時前であったので、しばらくお茶を戴いた。長谷川さん夫婦と幸庵(さわん)という蕎麦屋でお昼にした。記念写真を撮った。

       コンサートは2時からで、東京やら市貝やらからも来てもらって何とか埋まった。とはいっても30数人である。演奏は素晴らしかった。エルガーの「愛の挨拶」、シューマンの「アダージョとアレグロ」、といった甘い曲。

      その次がベートーベンの「チェロソナタ2番」。これは始めて聞いた。何やら不吉な序奏から主題が立ち上がりさまざまな局面を見せながら見事に展開していきクライマックスに達して回顧的に収まっていく第一楽章にはこれぞベートーベンという感動があった。第2楽章は舞曲的なリズムの繰り返しがややしつこかったが。チェロの演奏は大変丁寧で一つ一つのフレーズが豊かに味付けされていた。こういう表現の奥深さはフルートではちょっと無理かもしれないと思う。ピアノはそれ以上に素晴らしい演奏であった。音が綺麗に際立って聴こえる。全体にピアノがリードして纏め上げている感じでなかなかよく息が合っていた。あまり演奏されることのないこの曲は渡辺さんの選曲で、二人とも始めての曲ということで、ここまで仕上げるのはさすがである。

      休憩の後はカサドの「無伴奏チェロ組曲」で3楽章とも演奏した。スペイン的な情熱がさまざまなモダンなテクニックの中に浮かび上がる。

      ピアノのソロとしてベートーベンの「ピアノソナタ17番」の第3楽章が続いた。これは本当に見事はピアニズムで、リズムの繰り返しが少しづつ手を変え品を変え右手に左手にとなかなか楽しい。

      ここまでがやや本格的な曲で、あとは小品が続いた。メンデルスゾーンの「歌の翼に」、フォーレの「夢のあとに」、サンサーンスの「白鳥」、「赤とんぼ・たきび・紅葉」。いずれもあまり凝った変奏ではなくてストレートにオリジナルのメロディーを歌っていてチェロの音の美しさとピアノのややリラックッスした感覚のバックアップが際立った。最後のカサドの「親愛なる言葉」は始めて聴く曲であったが、ドラマチックで情熱的で引き込まれた。アンコールは美空ひばりの「河の流れに」と「星に願いを」。後味の良いプログラムとなっていた。

       二人とも24歳だそうで、これからが有望と思われる。曲の紹介などリラックスしていて家庭的な雰囲気(もっとも両親や知人に囲まれているのであるから当然であるが)もなかなかよかった。ピアニストの鈴木慎崇氏はダブっていてまだ東京芸大の学生である。ちょっと子供っぽい感じがかわいい。これだけの腕前で日本音楽コンクールでも一位を取ったのにあまりソロはやらなくて伴奏を好むそうである。長谷川陽子さんは桐朋学園を卒業したところ。鈴木氏の彼女がバイオリンをやるということなので、またピアノトリオでも聴かせてくれるようで、楽しみである。
<一つ前へ> <目次>