2005.08.07

      藤井香織が5年前にバッハの無伴奏チェロ組曲1番〜4番のCDを出したとき、何だか悔しかった。もう10年も私が練習していて、なかなかものに出来ないのに、東京芸大とはいえ大学生の女の子にこれだけ見事に演奏されてしまったのである。

      勿論フルートでの演奏はオーレル・ニコレという気高き見本があったのではあるが、彼女の演奏は、それとはまったく別で、何と言うかもっと現代的なものであり、かなり熟考されていて、聴いていて興味の尽きないものであり、ところどころ付いていけないような気もする。それでも、さすがに5番、6番は無理だろうと思っていたのだが、昨日ムラマツのホームページを覗いてみたら、CDを出したという。今日直ぐに街に出て買ってきた。さすがにこれは相当な苦労の跡が見えるが、それでも重音の扱いなどうまく工夫されていて、フルートならではの魅力さえでている。それと、これはやはり日本人の演奏である。短調に対する何とはなしの感情移入の仕方が日本人的である。そういう意味で共感できる部分が多い。最後に追加された、フルート・ソロの為のパルティータは誰でも演奏する曲目ではあるが、やはり良く考えられた演奏である。「考えられた」というのは、音楽を言語として演奏している、ということに尽きる。これは最近の古楽の考え方でもあり、師匠のパウル・マイゼンの指導なのかもしれない。したがって、ビートに乗った畳み掛けるような迫力という意味ではやや欠けるところがあるが、その替り、聴く人に語りかけ、考えさせる演奏である。

<一つ前へ><目次>