2015.05.29.
      夕方6時からフルートの練習。明後日が本番なので今日は指揮の富久田先生の登場である。名古屋交響楽団の主席フルート奏者である。明快で判りやすい教え方である。バッハの「目覚めよと呼ぶ声す」についてはアーティキュレーションが全面的に変更となった。スタッカートは普通の吹き方になり、テヌートのノンヴィブラートも自由に歌うことになった。楽になった。そのかわり、テンポの乱れに厳しい。「スクリーン・ミュージック・メドレー」は長いので繰り返しを殆ど吹かないことになった。後は細かい表現的な変更が多い。"Let it Go" はダイナミクスや表情が指定されていなかったので、全面的に指定した。最初は穏やかに優しく始まり、クレッシェンドで突然ピアノになるような動き方。もっとも僕は明日法事なのでもう1人で練習する事ができない。大オケ(アマチュアだけ)になると初心者向けと思われるいろいろな注意が多くなった。ハイドンの「セレナーデ」は指揮よりもお互いに聴きあって合わせること、ということで、見る見る内に良くなったと思う。バス音はそれに重なってくる他声部との和声を感じるようにたっぷりと歌う。そういうことを意識していると自然に合ってくる。バッハの「小フーガ」もポピュラーな曲だが、結構難しい。緻密に構築された音の宇宙を作ろうとすると、やはりテンポの正確さが必要になるが、それはお互いに聴きあって合わせるしかない。音符が細かくなるとついテンポが速くなり勝ちである。それを防止するためにはあらかじめ倍テンポを意識しながら吹いてそのまま入ると良い。やってみると確かにそうだ。4連の16分音符はしばしば3:1とか1:3に分割される。そのつもりで吹くと自然になる。謂わば音楽的は訛りのようなもの。それと、音符の始まりだけでなく、終わり方をキチンと合わせることでメリハリがついてくる。随分勉強になったけれども疲れた。帰宅したら10時。

2015.05.30.
      6時過ぎに起きて7時頃出発。新井口からは7時15分の電車に間に合った。広島駅のロッカーにフルートと譜面台と楽譜を預けてから、予定より一つ前の電車で尾道に着いたのが9時半頃である。尾道水道の景色は懐かしい。思わず写真を撮った。駅前渡しには結構自転車が多い。渡ってからはタクシーで立花に到着。脇の畑はサボテン用温室が解体されて、遊歩道も整備されて、山アジサイが盛りであった。自然に発芽していろいろなものが出来るそうである。いつでも公開しているので最近は見に来る人が居るそうである。お経は光明寺から来られた若い人。その後、皆で墓参りしてきて、ご馳走を食べて車で駅前フェリーまで送ってもらった。何とか2時11分の電車に間に合ったのは良かったが、その後続くべき電車が無かった。どうも時刻表を見間違えたらしい。結局三原から3時1分の電車に乗って、広島に着いたのが5時16分だった。三原から3時16分の新幹線という手もあったのだが。ともあれ、雨は降っているし、のんびりしていると遅れそうなのでタクシーに乗った。車も多かったが、それでもアステールプラザには10分前に着いた。今日は多目的ホールである。行ってみたら皆座って思い思いに練習していた。6時からまた富久田先生の指導が始まった。内容的には昨夜の復習であった。ハイドンのセレナーデでのスタッカートの癖はなかなか直らない。何回もドミソの和音を吹いて感覚を皆で掴んだ。

2015.05.31.
       今日は本番の日。晴れている。昨日も旅行があったり、夜も練習に出たので疲れが溜まっている感じ。去年と同じく早めに出て、広島駅で助六寿司を買った。ちょうどYさんと一緒になった。事前の音出しでスタジオ2が使えるということだったが、一杯で入る隙間が無く、外でYさんとしばし個人的な話をした。10時半になったのでホールに集まった。今回はピアノの調律があるので集合が遅くなったのである。譜面台を供出して席を整えてそのまま大オケのゲネプロに入った。順調である。ただ、僕は何箇所か間違えた。どうも集中力が足りない。椅子を並べ替えて、次は合同のゲネプロ。まあまあ順調である。僕はやはり何箇所か間違えたが大勢だし、もうあまり気にしない。でも全体としては良くなってきたと思う。そうそう、ホールで合奏してみると、響きの良さに驚く。練習場では他声部の音が聴こえなくて困ったが、ここでは明瞭に聴こえるので合わせやすいし、楽しい。富久田先生も音が響きすぎるので伴奏パートに抑えて抑えてというジェスチャーをすることが目立った。

      それから小オケのゲネプロであるが今回は「動物の謝肉祭」のみである。僕は残って聴いた。おそらく谷川俊太郎訳と思われる語りを松浦美音さんがうまくこなしている。ゆっくりていねいに子供に聞かせるように。彼女はフルートも堂々たる美音であるが、語りもなかなか美しい。曲全体としてはでも語りが長すぎるような気がする。音楽は洒落ている。エリック・サティーほど高踏的ではないが、ユーモアがある。ピアノが真中に入って周りをフルートオーケストラが囲むという感じはなかなか新鮮であった。

      というところで1時を過ぎていたので、控え室に行って急いで弁当を食べた。今回は和室になっていて、音出しもできないそうである。そんな暇もなく、僕は歯を磨くと直ぐに皆とチューニングの為にスタジオ2に行った。そこは女性の控え室にもなっていて、着替えが遅れてしばし待たされた。こんな狭い部屋でチューニングをやると響きすぎて自分の音が判らなくなる。それから舞台裏に行ったが、まだ富久田先生がゲネプロをやっていた。それが終わって入場が始まったのは5分遅れの2時5分である。何だか今回は忙しい。事前の入場練習もなかったから、座席表を見ながら皆で並び合って入場した。最初が、バッハの「目覚めよと呼ぶ声す」。どうも最初の数小節はうまく音が出ないような気がして気後れする。でも慣れてくると大丈夫である。クライマックスは後半なので問題はない。次が大オケでハイドンの「セレナーデ」これは全体にうまく行った感じ。最後まで緊張感が切れなかった。バッハの「小フーガ」もまずまず。休憩が入って、次は富久田先生のミニコンサートである。皆で聴きに行った。随分技術的に難しい曲(G.プリチャルディの「ローエングリン・ファンタジー」とイベールの「戯れ(ソナチネ)」)で僕も含めて一般には馴染みが無くて聴きにくかったのではないだろうか。でも彼のスタイルは何となく判る。大変堅実な演奏であるが、何かこうヴィルティオーゾ的な魅力はあまり感じない。バッハを聴いてみたい感じ。ピアニストは砂田直美さん。いろいろなフルーティストの伴奏をしていて、よく見る名前である。

      また休憩に入って僕達は控え室に戻り、小オケの「動物の謝肉祭」。これは長いので終わりかけた頃を見計らってまた舞台裏に集まった。最後は合同である。「スクリーン・ミュージック・メドレー」。全体にはうまく行ったと思うが、僕は最初の方はかなり落とした。まあフォルテのところはしっかり吹いたから問題なかったか?アンコールの「Let it Go」はまずまず。いずれにしても、本番が一番良い出来ではあったと思う。このフェスティバルも3回目でやっと慣れてきた、というか分を弁えてあまり無理しないという方針で落ち着いた感じである。前の方で吹いている上手い人は結構他の演奏グループを結成したり参加したりするようで、来なくなる人も多い。その替りに新しい人や高校生が入ってくる。フルート教育機関の役割も果たしているようである。

      打ち上げは去年と同じく国際ホテル3階。今回は隣の人が気さくで良く喋った。僕と同じく3回目で、あがると顎がガクガク震えて吹けなくなるとか、今回で始めてあがらなくなったというところまで同じであった。向かいには福山の人。Fバス担当だったらしい。来年は福山であるが、福山市制100周年に入れて貰えることになったという話をしていた。Yさんによると、福山での演奏会は広島と福山・尾道の合同演奏会になるのだそうで、人数も多いということである。福山のリーデンローズホールという素晴らしいホールが既に福山市で6月12日に予約してある。

      フルートを製作している人とも話した。お父さんが元々日管でフルートを作っていたそうで、ヤマハに買収された折に独立してハンドメイドの小さな会社を作ったのだそうである。自分でフルートを製造している。いろいろ聞いてみた。足部管のH管(半音低い音まで出せる)だけを売ってくれないのは何故かと言うと、足部管と本管のつなぎ目はメーカーや個々の楽器によって微妙に違っていて勝手に足部管だけ入れ替えるというのは難しいということらしい。彼はできる様なら作るということであったが、やはりまとめて一本買った方がが良いらしい。H管は半音低い音をカバーするだけではなくて、楽器としての音のバランスが良くなるのが狙いだそうである。フルートの性能として一番重要なのは歌口で、これが2/3。歌口の形状は個人個人で口唇の形が異なるので、最適なものがあるそうである。これがまあ手作りで対応できる良さの一番。あとの性能を決めるのはタンポの精度(密閉性)、つまりはキーシステムの機械的精確さと頑丈さが1/3。つまりは楽器の材質だとかはまあまあということ。キーの配置などは個人の手に合わせることも可能だそうで、その辺も手作りの良さということである。そういう意味でアマチュアのお客さんが多いらしい。「フルーティストの99%はアマチュアですよ。」と言われて、虚を突かれた思いがした。ほんの一部のプロ奏者だけを見ていたのではビジネスは成り立たないし、多分音楽としても偏った見方になるだろう。

      フルートオーケストラというのは日本独特と言っても良いような編成らしい。アルトフルートなどは欧米でも製作されているが、それより低音側でコントラバスフルートまで製作しているのは日本のメーカーだけである。大きなキーを遠方の指から素早く操作するので、確かに機械精度が要求される。吹くのも大変なお腹の力が必要だし、合理的に考えるならチェロやコントラバスやチューバやファゴットなどの効率の良い楽器がいくらでもあるけれとも、やはり日本の笛吹同士は仲間意識が強いのかもしれない。

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