2018.07.15
 佐藤優『ファシズムの正体』(インターナショナル新書)を読んだ。これは朝日カルチャーセンターの講演をまとめたものということらしく、論旨平明で判りやすいが、それほど深くはない。基本的には幾つかの文献を読み込んで講義ノートとしたものである。

土方成美『ファッシズム』(岩波書店)、ロマノ・ヴルピッタ『ムッソリーニ』(ちくま学芸文庫)、ジョヴァンニ・ジェレンティーレ『ファシズムの哲学的基礎』=加田哲二要約、大川周明『日本二千六百年史』(毎日ワンズ)、新明正道『ファシズムの社会観』(岩波書店)、クルツィオ・マラパルテ『クーデターの技術』(中公選書)、福田和也『日本クーデター計画』(文芸春秋)、片山杜秀『未完のファシズム』(新潮選書)。

      (狂信的なナチズムとは異なり)ファシズムは福祉国家と階級的・民族的な寛容性の顔を持っており、資本主義の発展による社会的矛盾を解決する魅力的な思想であるが、独裁体制となり排外主義的となる危険性を持つ。唯一、佐藤氏の主張は、ファシズムに抗する為には中間共同体を再建することだ、という処である。宗教団体、労働組合、業界団体、地域の寄合やサークル等。これは、国家へと収斂していく倫理に抗するためである。日本ではファシズムは成功しないだろうが、それでも資本主義の矛盾が進行すれば、非合理な排外主義や精神主義が台頭する危険性がある。

 
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