2017.10.28
      台風の影響で雨の中、長靴を履いてアステールプラザのオーケストラ等練習場での、東アジア音楽祭を観てきた。今日は前半が韓国伝統音楽の解説と演奏で、後半が伝統音楽による新作の発表である。明日の前半は日本の伝統音楽である。広島出身の在日韓国人であるション・シニ氏が解説。17年間韓国で修業したらしい。テグムを吹いて、キン・スイル氏がピリを吹いた。韓国伝統音楽で一番重要な楽器はこれらの旋律楽器ではなくて、大きな鼓のような形をしたチャンゴという打楽器で、これなしには韓国伝統音楽はあり得ない。(ただし、パンソリには代わりにプクという小さな太鼓が使われる。)今回は韓国の奏者を招いていた。

      テグムは横笛で、歌口のちょっと下に葦の内被による薄皮を張られた孔があって、強く吹くとその膜が振動して騒々しい音が追加される。吹き方の特徴としては、楽器を内側に廻すことで音を下げたり、外側に廻すことで音を上げたり、大きく揺らして独特のビブラートをかけたりする。このような感情表現によって曲をまとめる感じである。音階はソラドレミの五音音階に近いが、地方によって多少違いがある。ピリは日本でいうと篳篥、西洋楽器ではオーボエに相当する2枚リードの小さな笛であるが、大きな音が出る。テグムとピリの音合わせが面白かった。特定の音で合わせるのではなく、基本的なフレーズを吹きあって全体の音調を確認している。楽曲の基本はチャンゴの作り出すリズムであり、遅いリズムから速いリズムまで4通りがある。一聴すると大変複雑なリズムパターンであるが、大きく見れば3拍子になっている。旋律楽器はこのリズムに合わせて旋律を作り出すが、その元は歌である。歌を離れて器楽曲が成立したのは比較的最近のことらしい。

      韓国の伝統音楽は大きく分けて宮廷音楽と大衆音楽に分かれているが、いずれも幾度かの不幸な内戦によって、伝統が断たれてきた。日本の植民地になった時にそれまでの李朝朝鮮の宮廷音楽家は追放されたが、その後一部を再雇用して、その人たちが伝統音楽を引き継いでいる。今回紹介された大衆音楽は民謡を中心として続いて来ていて、テグムやピリのような管楽器やチャグムのような打楽器、あるいはカヤグムのような弦楽器は李朝以前の時代から使われていた。有名なパンソリとかシナウィ(シャーマン音楽)の影響が大きい。演奏はまずその線に沿ったテグムサンジョ(散調)。散調というのは調子が移り変わって自由度が大きいところからつけられた名前である。リズムは遅いのから速いのに順番に移り変わっていく。怨念を浄化したような感じで、こういう情念の表出は韓国独特と思っていたが、むしろ南部の特徴らしい。2曲目は民謡のメドレーで、これはやや景気の良いリズムで、韓国人の最も好むリズムだそうである。これらは韓国南部の音楽であるが、ソウル近辺では明るい感じの民謡が主流であって、これらのメドレーも演奏してくれた。有名なアリランの旋律に近い感じがした。

      後半の新曲はやや聴きづらい曲が多かった。最後の「マリンバとピアノの為のノスタルジア」(2005)がとても良かった。曲とは関係ないが、ピアニストの小林知世さんがとても可愛らしかった。作曲者は熊本の平成音楽大学の学長で出田敬三。この大学は九州で唯一の音楽単科大学で、中国地方唯一の音楽単科大学のエリザベト音大とよく似た立場にある。熊本地震でピアノが70台も壊れたそうで、募金をしていたので、千円入れた。他では尺八の福田輝久さんがとても巧かった。
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