今日はムシカでチェロのトリオの演奏会。珍しく家内が行こうと言った。ムシカといえばその昔胡町にあって、クラシック喫茶として有名であった。友人ともよく一緒に行ったが、家内とのデートの場所でもあった。一時広島の北の方の田舎に引っ込んでいたのだが、最近広島駅の近く(というよりはマツダスタジアムの近く)に戻ってきた。時々ライブをやるのである。そういうことで懐かしさもある。ホールは大きめの試聴室という感じで、30人位入って満杯であった。

・・・演奏は昨夜も出演していた広響の主席チェロ奏者マーティン・スタンツェライトを中心として、広島出身の末永幸子と宮本隆二が加わっている。チェロという楽器は最低音がCということもあって、独奏曲ではフルートとレパートリーが重なる(2オクターブずらすだけで、ピアノ伴奏は共通で使える)。音域は随分違うが優しい音色が共通している。共に同じ楽器同士での合奏がしばしば企画されるところも似ている。観客としてはチェロを教わっているアマチュアが半分以上という感じであったのでこの機会に比較すると、フルートを吹くアマチュアがふわふわしていてちょっと飛んだ感じなのに対して、チェロを弾くアマチュアには体格のガッチリした真面目な感じの人が多いように思う。

・・・プログラムの方は、ショスタコーヴィッチの「プレリュード」に始り、ハイドンの「チェロ三重奏曲」、エルガーの「愛の挨拶」と楽しい合奏が続いて、4曲目はマーティンさんのソロで、フェレーラというブラジルの作曲家の「無伴奏チェロ組曲第1番」であった。ブラジル人はバッハが好きなのだそうだが、この曲もバッハを思わせる曲の構成になっていて、多少ラテン的な歌い方が面白い。本当かどうか知らないが世界初演だそうである。次はモーツァルトの歌曲の中から「アダージョとカンツォーネ」、更にポップスの編曲でブルーノ・マースの「Young Girls」。これで前半が終り。

・・・さて、マーティンさんのチェロであるが、どこかルネッサンス時代の音楽を思わせる。末永さんの音と比較すると良く判る。彼女の音は楽譜の音価(音の時間的長さ)に忠実で、良く鳴る立派な音なのだが、訴えるものがあまり無い感じである。それに比べてマーティンさんの音は音の始りと盛り上がりと終りがあって、それによって表情が付けられている。その一つ一つの音の表情が組み合わされて一節のメロディーの意味を伝える、という感じである。意識的かとうかは判らないが、ここはこういう感じ次は別の感じという弾き分けをはっきりさせている。機械的な演奏家というよりは音楽家という感じである。そういうことで音楽そのものに惹きこまれていくのである。

・・・後半はバッハの「シンフォニア第13番」と(有名なG線上の)「アリア」で始まった。ここでも主旋律を弾くマーティンさんと第2旋律の末永さんの違いがやや目立つ。次は末永さんと宮本さんのDuoで、サン=サーンスの「白鳥」。これは宮本さんの編曲で、伴奏としてバッハの無伴奏チェロ組曲1番のアルマンドを多少和声を変えて弾いている。なかなか面白い。どちらを主に聴いたらよいのか迷う。次もDuoでピアソラの「オブリヴィオン」。これはちょっとリズム形が乱れ気味だったと思う。チェロでミロンガのリズムを刻むのでやりにくい感じがあった。次の曲はまた3人で、マーティンさんのオリジナル曲、「Silent Forever」。3人がピッチカート奏法でフーガを始めて、最初にマーティンさんが弓で弾き始めて、次々とまたフーガで繋いで、最後はまたピッチカート奏法に戻る、という構成が新鮮であった。メロディーは何となく久石譲風で親しみやすい。次はパーセルの「シャコンヌ」をしっとりと演奏して、ポップスからU2の 「The Miracle」。

・・・アンコールにはまずローリング・ストーンズの 「Paint It Black」。これはなかなか懐かしい曲であった。ロックが好きなんだなあ、と思った。最後はカザルスの愛奏曲「鳥の歌」。末永さんと宮本さんが前奏と最後に鳥の鳴く音で分散和音を鳴らし、中間部はマーティンさんがたっぷりと歌う。なかなか聴き応えがあった。

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