「美を脳から考える:芸術への生物学的探検」  新曜社

知覚に対する一般的なバイアス
1。秩序、規則性、パターンを求める、認知的バイアス。
2。系統発生的な起源のもので感情に訴える。
3。集団性に起因するもの、スタイルやイデオロギー、徳性等の象徴性バイアス。

    個人を集団の中で、或いは異性に対して目立たせるもの。
装飾性や投入した労働が価値と見做される。貨幣の代替となることもある。霊を惹きつけるとされる標識。様式化によって機能が強化される。行動パターンにもその傾向があり、儀式化され、さらには信号や記号になる。記号にまで進化すると、記号間の区別性、差異性に本質が移る。構造主義の立場。

聴覚神経系の階層
    同時=0.003 秒 以内。
    複数音=0.003 秒 以上。しかし前後の区別は出来ない。
    音の前後の知覚=0.03 秒以上。受動的知覚。
    音への反応=0.3 秒以上。前後関係を意味付ける。反応=音節認識。
    経験の纏まり=3 秒。比較の集積を新しい経験として纏める。
                  人における現在の長さ。人の存在に必要な時間。
                  聴覚の一次記憶容量に対応している。
    詩の一行はほぼ3秒であり、ほぼ10の音節からなる。

    音楽におけるテンポは他者との共同作業の重要なポイントであり、テンポの変化が簡単な整数比になっているという事実が非常に広い範囲で認められている。舞踊も同じである。テンポを保つことによって始めて聴く人は認知系の準備が出来る。すなわち同期することで始めて音楽の意味が解読される。テンポを揺らすことは例外的なことであり、短時間の内に元のテンポに戻るか、あるいは整数比となる別のテンポに移行する。テンポを保つ限り、テンポの単位であるリズム形の中で拍の位置をずらすのは自由であるし、それが意味を持つ事が多い。リズム楽器はそれで成り立っている。テンポを途中で変えるとそれは一つの音楽として認知されなくなる。練習の感じがしてくる。

    右脳と左脳の分業は生存の為の情報処理を効率化する為に進化したと考えられる。情緒的な認知と言語的な認知は分業される傾向にある。芸術家の特徴はそれらを統合する、という事である。これは日常生活だけでは出来ない類の訓練を要する。ある意味でそれは情緒の制御技術であり、別の意味では情緒の言語化技術である。子供がしばしば素晴らしい芸術家であるのは、右脳と左脳の分業がそれほど発達していない為である。

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