上野には8年ぶりに会った友人と丁度約束の5時半に到着。東京文化会館に入って正面2階の喫茶レストランに入ってしばらく待つと家内から電話があって、家内とその母がやってきた。4人で30分位話して彼と別れたら、丁度長谷川さん夫婦と上の娘とその夫がやってきた。下の娘、陽子さんの先生である秋津智承さんの演奏会である。曲目はバッハの無伴奏チェロ組曲2、4、6番である。秋津さんのお父さんは浄土真宗のお坊さんで、やはりチェロを趣味で弾いていた。秋津さんはいろいろとコンクールで成績を収めてプロになったが、一応お坊さんの修行もして資格をとっている。以前広島テレビで紹介があり、WEBでその動画を見ることが出来る。毎年全国行脚で演奏会を行っているらしい。現在は大阪フィルの主席チェロ奏者である。

       演奏であるが、全体に音自身は大人しく地味である。石造りの見かけの割にはそれほど響かないホールの所為かもしれない。各舞曲に応じて丁寧に弾いてみたり、深く没入してみたり、やや感情的な起伏を見せたりして、スタイルをコントロールしているように見受けた。それが良いかどうかは判らない。

      僕として感銘を受けたのは、サラバンドにおける自己没入した演奏で、曲の構成として前半と後半それぞれを繰り返すのであるが、繰り返しの一回目と二回目がまるで違うように聴こえた。二回目は時間が殆ど止まるほどゆったりと流れて、音の動きが感情の動きをそのまま伝えてくる。不思議な経験であった。クーラントやガボットやメヌエットやジーグでは意識的に緩急をつけて走るようなダイナミズムを出そうとしていたが、上手くいった曲とちょっと合わなかった曲があったと思う。アルマンドは全体にバランスが取れていてなかなか良かった。音の重なりかたなどとても丁寧に弾きこまれていて弓使いを見ても、なるほどこういう風に弓を操るんだなあ、と感心した。プレリュードは2番が一番良くて、4番、6番の順であった。やはりこういう構成の大きな曲は難しい。細かいところまで完璧であって、しかも全体のバランスが良くて流れも良くて、となると、疲れてくるとなおさら難しいのかもしれない。アンコールはなくて、外には聴衆が長蛇の列を作って秋津さんに挨拶していた。お弟子さんたちが大勢来たということであろう。
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