著作権・大阪東ティモール協会
East Timor Quarterly No. 9, October 2002

アメリカ人兵士は引き渡さない
国際刑事裁判所(ICC)条約第98条に関する協定

松野明久

 8月12日、東ティモール議会は、国際刑事裁判所条約を批准した。しかし、政府はその後すぐに、アメリカ人兵士を国際刑事裁判所に引き渡さないことを確約する協定に署名した。これによって、東ティモールは、ルーマニア、イスラエルについで3番目に、アメリカの傲慢さに屈服した不名誉な国となってしまった。


 国際刑事裁判所条約の第98条は、「免責権の放棄と引き渡し承諾に関する協力」と題され、次のように言っている。(非公式の和訳)

1.裁判所は、その国が、第三国の人間ないしは財産の、国家的ないしは外交的免責権に関し、国際法上の義務に反して行動しなければならなくなるような引き渡しや支援を要請することはできない。ただし、裁判所が、その第三国から免責権の放棄という協力をえられた場合は、この限りではない。

2.裁判所は、その国が、派遣国の人間を裁判所に引き渡すにあたり、その派遣国の承諾を必要とする国際協定下の義務に反して行動しなければならなくなるような引き渡しを、要請することはできない。ただし、裁判所がその人間の派遣国が引き渡しを承諾するという協力をえられた場合は、この限りではない。

 つまり、アメリカのように、自国の兵士を引き渡したくない場合は、各国政府と個別に兵士の引き渡しをしないという協定を結べばいいということになる。そして、実際、アメリカは各国にこの協定をおしつけようとしている。
 今まで、この協定を受け入れたのは、ルーマニアとイスラエルだけ。イスラエルは国際刑事裁判所条約には入っていない。EUは、EU加盟を狙うルーマニアが人権についてアメリカに大きく譲歩したことに、強い不快感を示している。
 東ティモール政府は、8月23日、アメリカとの協定に署名した。これには世界から非難が集まった。
 これに先立ち、アメリカは、東ティモールに滞在していたアメリカ兵を本国に引き揚げさせた。アメリカは否定しているが、国際刑事裁判所条約に対する拒否の姿勢をアピールするためだったと見られている。
 その後の展開では、タジキスタンも協定を受け入れた、またイギリス、イタリア、そしてEU自体も、この協定を受け入れる可能性をさぐっているなどと報道されている。(Christian Science Monitor, Sep. 5)
 アメリカは、今、世界中でいわゆる「テロに対する戦争」を展開している。協定締結を急ぐのは、そのためでもある。

地位協定

 10月1日、東ティモールはアメリカと、人道援助などで東ティモールに寄港する艦船やアメリカ兵の地位に関する協定を取り結んだ。これは、先の引き渡し拒否協定とは別なもので、アメリカ国務省によれば、どの国とも締結している標準的な協定だそうだ。★


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