<憲法>

東ティモールの憲法を読む

松野明久


 3月22日、東ティモールの憲法が制定された。賛成72、反対14、棄権1という結果だった。1人は病気のため欠席した。この憲法は、制憲議会で案を決定したあと、各地でのヒアリングであがってきた意見を加味して、最終的に決定したものだ。はたしてその内容はいかなるものか。(憲法[英語・ポルトガル語]はアメリカの支援団体のホームページからPDF形式でダウンロードできる。http://www.etan.org/)

前文

 憲法前文は東ティモールの民族解放闘争を総括するもの。争点は「独立をいつにするのか」だった。フレテリンは独立宣言を発した1975年11月28日を擁護したかったし、そうでない勢力はむしろ住民投票を自決権行使とみなすべきだと考えた。結果は、当然ながら、数でまさるフレテリンの主張が通ったかたちになった。
 植民地化からのティモール人民の解放と外国諸勢力によるマウベレ祖国の不法な占領をへて、1975年11月28日にフレテリンによって宣言された、東ティモールの独立は、2002年5月20日、国際的に認められる。
 「ん?」と思う人も多いかもしれない。「この5月20日は、あの1975年の独立宣言を認めたもの?」と聞きたくなるような文だからだ。細かく言うと「宣言された、東ティモールの独立」の「、」が重要だ。これがあるとないとでは大違い。この文は、必ずしも「あの独立宣言」を国際社会が5月20日に認めたものだと言わない、解釈の余地を残した微妙な表現だ。
 続いて前文では、CNRT(ティモール民族抵抗評議会)にふれ、教会の貢献にふれ、住民投票で人びとの独立の意思が確認されたとしている。

第1部 原則

 国名は「東ティモール民主共和国」。独立宣言の日は1975年11月28日。(つまり2002年5月20日ではない。)
 普通選挙と複数政党制を採用。他の民族解放闘争に連帯する、とある。
 独立闘争の英雄たちについては、「戦争によって障害者となったもの、孤児、およびその生命を独立の闘いにささげた者たちの家族に対する特別な保護を行い、また外国支配への抵抗運動に参加した者たちを保護する」とある。しかし、ここには戦争被害者についての言及はない。
 問題となっていた政教分離の原則については、ヒアリングの段階でかなりカトリック教会の立場を重んじる意見が出され、かなりあいまいな表現となった(第12節)。それによると「国家は宗教を認め、尊重し」、「東ティモール人民の福祉に貢献する宗教との協力を促進する」となっている。「国家は宗教から分離される」と明白にうたっていた最初のドラフトからすれば、だいぶ薄まっている。

第2部 権利、義務、自由

 ユニークなのは「オンブズマン」制度と「抵抗権」だろう。
 オンブズマンは、公的機関に対する市民の不服申し立てを受けつけ、その法的妥当性を吟味し、救済するプロセスを開始することができる。
 また、抵抗権については、基本的権利や自由を侵害するような不法な命令にはさからう権利があるとしている。
 画期的だと思えるのが、良心的拒否の自由を認めていることだ(第45節)。「良心的拒否者たる自由については、法律にしたがって保証される」とある。「法律にしたがって」というところが注目だが。
 そして、死刑を憲法において廃止しているのは、すばらしい。
 その他、男女の平等、子どもの権利、若者、年配者、障害者の保護などが規定され、報道の自由、集会結社の自由、表現の自由、移動の自由、良心・信仰の自由なども一応保証されている。
 経済権、社会権についてはくわしい規定がある。
 中でも労働者の権利はかなり詳しく規定され、保護されている。国家は生産組合を奨励することが規定されているのもフレテリンらしい。また、健康、住宅、教育、文化への権利に加え、環境への権利が書かれているのも、時代の流れを受けたものといえる。

第3部 政治権力

●大統領

 大統領の権限は非常に弱く、「象徴大統領」にすぎない。その権限は次のようなもの。
 ・法、議会の決議、国際条約を発布する。
 ・国軍の最高司令官としての役割をはたす。
 ・法の国会通過後30日以内に拒否権が発動できる。(ただし、90日以内に再び国会が過半数をもって採択すれば拒否できない。)
 ・首相任命。ただし与党(連合)が指名した者。
 ・最高裁判所に違憲立法審査を要請できる。
 ・国民的関心事について国民投票に付することができる。
 ・非常事態宣言、宣戦布告・和平布告を行う。ただし政府、議会などの了承が必要。
 ・恩赦、減刑。ただし政府との協議が必要。
 ・勲章授与。法律にしたがって行う。
 ・国会の特別会合を要請することができる。
 ・国会と国に対してメッセージを発する。
 ・国会の解散。ただし、60日以上も組閣できない、予算が承認されないなど機構的危機の場合に限る。また国会内諸政党と協議が必要。
 ・最高裁判所長官、検事総長の指名。
 ・国軍総司令官・副司令官などの任命と解任。ただし、副司令官以下については総司令官と協議が必要。

●議会

 国会は一院制で、定数は52-65議席(今は88議席)。任期は5年。
 かなり問題なのが、法律制定を内閣に委託できる制度(第96節)だ。これによって委託できる分野は、犯罪および刑罰の規定、訴訟手続き、金融制度、財政制度、報道関係の規定、生産財・土地の国有化・民営化となっており、かなり重要な政策項目について、議会がその決定権を放棄し、内閣に白紙委任状を与えるというのは、議会としては怠慢といわなければならない。これは内閣への権力集中をはかるため、議会の実質的機能を制限したものといえる。

●政府、内閣

 通常われわれがいう内閣は、ここでは二つの組織に分裂している。ひとつは「Government」、もうひとつは「Council of Ministers」といわれるものだ。後者をふつうは内閣と呼ぶのかもしれないが、実際には前者がいわゆる内閣のように機能している。ここではとりあえず、前者を「政府」、後者を「内閣」としておこう。
 政府は、首相、大臣、長官(Secretary of State)からなる。副首相、副大臣を含んでもよい。内閣は、首相、副首相、大臣からなる。(つまり、こちらは長官と副大臣はいない。)
 政府の長は首相であり、首相は内閣を主宰する。(つまり政権の長は大統領ではない。大統領は政府にも内閣にも含まれない。)

第4部 経済・財政組織 <省略>

第5部 国防と治安

 国防軍の名前は、Falintil-ETDFとされた。つまりファリンティル(東ティモール民族解放軍)の名を残したわけだ。

第6部 憲法改正

 憲法改正は、それが発効してから最初の6年はできない。しかし、議会の5分の4が賛成すれば、その限りではない。改正提案がなされて120日後に議論がスタートする。憲法改正は、議会の3分の2の賛成で可決される。
 しかし、憲法改正できない項目がある。それは独立、国家の統一、国民の自由と権利、共和政体、権力分立、司法の独立性、複数政党制、国旗、独立宣言の日などとなっている。★


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