<忠告>

土地の人の忠告を聞かなかった罰

カミイ(クミリ)の実を食べたら ..........

松野明久

おいしいー!

 ベニラレへ行ったとき、泊めてもらったおうちのおばあちゃんが、クルミのようなものを上手に割って実を取りだしていた。(図参照)
 その割り方がとってもなれたもので、どんどん割っていく。「わーっ」と誰もが感心してしまった。そして出てきた実は白くて丸くてマカデミア・ナッツのようであり、食べるとすっきりしたやわらかい味がした!「おいしいー」と言ってみんなで試食していると、おばあちゃんは「それは食べれない」。
 「えー、食べれますよー」と私たち。「クルミみたいでおいしいよねー。」
 しかし、周りにいた人たちもこぞって「それは食べれないよ」。東ティモールではこの実から油をとって髪にぬったりするそうだ。
 人びとの忠告を無視して食べ続けていると、おばあちゃんがどんどん割って、ビニール袋にいっぱい割った実をいれて、おみやげに渡してくれた。ちなみに家族の人たちによると、このおばあちゃんは朝4時に起きて1日中働くおばあちゃんなのだそうだ。別に笑ったりするわけでもなく、淡々とした表情で「おみやげ」をくれた。

全員、お腹をこわす

 ディリに帰って、そのまま食べるのもなんだからということで、軽くローストして砂糖がけした。砂糖がけとは、砂糖に水を少々加えて弱火で溶かして煮詰め、糸を引くようになったら、ナッツを入れ濡れぶきんの上に鍋をおいて一気に攪拌する。すると空気を含んだ砂糖がナッツにこびりつく。かりんとうをつくるときの手法だ。
 けっこういける、などと言いながら10粒ぐらは食べただろうか。
 その夜から明け方にかけて、それを食べた4人の日本人は全員激しい下痢にみまわれた。お腹が痛いという感じはとくにはなかったが(痛いという人もいたが)、とにかくトイレに行くことそれぞれ数回。すっかり焦燥してしまった。しかしそれでも人と会う予定があって、お腹をかかえて出発。下痢が一段落したのはその日の夜だった。

その名は「カミイ」

 このクルミのような実はインドネシア語で「クミリ(kemiri)」と呼ばれるもので、テトゥン語(ディリ・テトゥン)の辞書では「カミイ(kamii)またはカミイン(kamiin)」と出ている。ちなみに英語名はCandlenutで、和名は「ククイナット」というのがあるらしく、ハワイ語のククイをそのまま転用したものだそうだ。
 インドネシアではソースにとろみをつけるのにつぶして使ったりして食べている。農林省熱帯農業研究センター『東南アジアの果樹』には「食用として核を調味料に利用するが、生まのままでは有毒である」とあり(ガーン!)、油をとるとは聞いていたがまさか「核からとった油は乾性油でニスや灯用に供される」とは知らなかった!
 ところで、昨年11月にバリ島で行われた外務省主催の東ティモール戦略会議では、たしか在ジャカルタの三菱商事の人が、クミリは半導体用の糊料として需要があり中国が輸出している、東ティモールもこの可能性はないわけではない、というようなことを述べていたのを思い出す。クミリについてはおもわぬ勉強をさせてもらった、と前向きに考えておくことにしよう。★


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